「モスクワの伯爵」

エイモア・トールズ 著 ★★★★★ 早川書房

これまでロシア革命をモチーフとした小説、ノンフィクションをいくつか読んできたが、それらは悲壮感、辛さ、闘争の過程などを描いた、どちらかといえば「重い」作品ばかりだったような気がする。 だが、この作品は違った。出だしこそ主人公である伯爵のホテル幽閉という場面から始まるが、その後の展開はまるでおとぎ話のよう、まさに大人の童話という表現がぴったしの内容で、この手があったかと、思わされた作品であった。 モスクワの名門ホテル・メトロポールにふさわしい紳士として、主人公は英知、ウイット、誠実さたっぷりに描かれる。物語は伯爵の身に起こる様々な日常を積み重ねて描くという形式をとっていて、その挿話それぞれが短編として完結しており、それ自体完成度は高く読み応え十分。邦題は原題の直訳となっているが、「伯爵と愉快な仲間達」にしてもよかったかも。伯爵と母娘二代に渡る少女との交流が小気味よく、ほほえましく描かれていてる。さらに、ときにはスリルも交えて、布石も打ってあって、ヒヤヒヤする場面もあるが、それでいて心が温まり満たされる作品であった。

「モスクワの伯爵」

Loading