「数学小説 確固たる曖昧さ」
ガウラヴ・スリ ハートシュ・シン・バル 著 ★★★ 草思社
どうやったら数学が小説になるのか? 小難しそうな題名だが、読んでみるとおもしろい。 「無限」についての簡単なレクチャーからユークリッド幾何学の初歩をわかり易く小説の中で解説。まるでパズルを解いていくような楽しみがある。中盤からは、集合論や連続体問題も出てくるが、こっちはちんぷんかんぷん。 人が物事にどうやって確信がもてるのか。感覚的に、観念的に確信を得たと思っていても、実は無意識のうちにその事象を論理的に証明しているのかもしれない。数学的な思考と普段の生活との関わりについて再認識させられる。 主人公である大学生の数学の講義が彼の人生に指針を与える。主人公はふとしたことから、インド人数学者の祖父がかつて涜神罪に問われて拘置所に留置されていたことを知る。修正第一条との整合性をめぐる判事と祖父とのやりとり。論理的に証明できない神という存在は信じないとする祖父。自分なりの思考で得た結論をなぜ発言してはいけないのかと。神の存在が自明の公理であるかのように思ってきた判事にはその考えが理解できない。 数学的思考につて、祖父は判事にとくとくと語る。その物語が本筋の入れ子となって、本筋と見事に融けあっている。 ノンフィクションとして、サイモン・シンのように数学指南書という形をとっても、それなりの作品となったであろう。ひところ話題になった「白熱教室」を観ているような気がした。
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