「悪の仮面とルール」

中村文則 著 ★★ 講談社

久しぶりに中村文則を読んだ。最初に出会った頃のような衝撃はない。人の心をミキサーにかけて撹拌してビンに流し込むと、いくつかの層に分かれる。中村文則はその中の悪の部分を抽出して作品にする。こんなにも邪悪な物語を書きつづる作者の思考は私の及びのつかないところにある。はたして神の子なのか、悪魔の化身なのか。 最初から中盤にかけてはよかった、作者独特の陰の部分がよく出ていた。主人公が整形手術を受けて、他人になりすますところまでは。他人になりすまして後どんな悪が語られるのかと期待したのだが、どろどろと蠢くような悪は語られず、挿話にも切れが薄れていった。 悪の中からほんのりと光が射す終わり方は、他の類型となんら変わらない。中村文則が語る「悪」には似つかわしくないと感じた。

「悪の仮面とルール」

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