山と不整脈その1 症状が心房細動とは知らなかった頃の話

不整脈を持ちながら山をやっている人がどれだけいるのか分からないが、たぶんかなりの人が不整脈が原因で限られた条件での登山を強いられているのではないかと思う。自分の体験を振り返りながら、山と不整脈について考えてみたいと思う。 「心房細動」という病名は耳にしていても、それがどんな病気なのかはっきりと知っていたわけではない。単に心臓の病名の一つといった認識くらいしかなかった。それまでまるっきしの健康体を自負していた自分には縁のない話だと思っていた。しかし、突き付けられた現実は非情で、自分の生き方そのものを変えてしまった。 まだその症状が心房細動とは知らなかった頃の話。

冬山からしばらく遠のいていて、しばらくぶりに臨んだ2008年の鹿島槍でそれは起こった。年末の入山日、車止めから歩いて赤岩尾根の取り付き目指して歩いていた。一本取り、いよいよ尾根に取り付いてまもなく息が苦しくなって行動不能に陥った。少々休んで再び動き出すも体に酸素が入っていかない感じ。そんなことを二三度繰り返して後、完全に動けなくなって、雪面にうずくまってしまった。当時の模様を以下のように綴っている。

後からにして思えばこのとき心房細動が発症していたのだと思う。 急な尾根の途中だったが仲間に頼んでテントを設営してもらい、転がり込むようにして中に入った。休んでいると苦しい症状は和らいでいって、食事もなんとか摂ることができた。翌朝になってみると、前日のことが嘘のように体は軽くなっていた。そのときは心臓の異常などとは思ってもみなかった。ただ単に体調が悪かったのかな、くらいにしか考えておらず、テントサイトからの頂上アタックもゆっくりペースではあったが、無事成功した。息が切れ切れの登行であったが、久しぶりの山だから体がついていかないだけだろう、としか思わなかった。下山時は全く問題ない。ただただ、あの不具合はいったなんだったんだろう、と首をかしげるばかりであった。 この年の5月には、馬場島から西大谷尾根を歩いて剱まで縦走し早月尾根を下りてきており、このときにはなんの異常もなかった。それだけになおさら自分の体の中で何か変化が起きているとは夢にも思っていなかった。

山と不整脈その1 症状が心房細動とは知らなかった頃の話

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