「チンギス紀 全十七巻」

 北方謙三 著 ★★★ 集英社

ようやく読み終えた。何年かかったのだろう。最初、読み始めてから4巻目くらいで、図書館の在庫は終わってしまい、あとは新刊が入って来るの待つことになる。しかし、人気作品なので順番がなかなか廻ってこない。そうこうしているうちに、2、3年は過ぎていった。そして、一昨年、再び最初から読み始めた。第5巻の半ばほどで、テムジンの出生の秘密が明かされ、「吹毛剣」がテムジンのもとに渡る。水滸伝ファンなら眼を見開いて読み進む場面。ここまで来たところで、「楊令」のことをもっとしっかり自分に取り込みたくなって、一旦「チンギス紀」から離れ、原点に戻り、「楊家将」「血涙」「水滸伝」「楊令伝」を読み返すことにした。そうしないと「チンギス紀」は読み進められないような気がしたからだ。それが終わって、再度「チンギス紀」第5巻を手に取って、テムジンへの共鳴がより増したことを実感した。

前作の「岳飛伝」よりは面白い。作品としては5,9巻に大きな波あり、その後はテムジンの旅と同調するような長い物語だ。「楊家将」「血涙」から比べると、「水滸伝」「楊令伝」に進むにしたがってスケールは大きくなり、「チンギス紀」に至っては前者を遥かに凌駕する大陸レベル物語となってしまった。そして、「楊家将」以来引き継がれた水滸伝の資産を要所に散りばめ、水滸伝ファンにはたまらない演出が施してある。

「楊家将」から「チンギス紀」までを一連の時代劇と捉えるなら、水滸伝の前段となる「楊家将」「血涙」では英傑らの生き様に力点がおかれた従前の歴史物語の手法をとっている。それが、「水滸伝」からは英傑の魅力、相手方との権謀術数、戦の場面に加え、戦略面でこれまでの歴史小説にはない展開を見せている。それは、兵站を物語の片方の主軸に加えたことだ。兵站をこれほど重視し、兵站もまた「戦」と捉えた作品はこれまで見たことがない。兵站を一つの軸とすることによって、物語の厚みと面白さは何倍にもなった。そして、「兵站」は商業の道筋と重なり、民草の生活にも関わっていく。この軸は「チンギス紀」まで貫かれることになる。

読み終えて、長い仕事にケリがついた感じ。さぁ、次は何を手に取るか。

「チンギス紀 全十七巻」

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