「後藤さんのこと」
円城塔 著 ★★★ 早川書房
円城塔、四冊目。やっぱり物語としては支離滅裂、理解不能。 単行本のカバーには「想像力の文学」とロゴが打ってある。 確かに、円城塔の作品は想像力が並大抵では敵わない、おもしろくない。 だが、本の題名にもなっている「後藤さんのこと」と「考速」には文字遊びの趣向がこらしてあって、読むパズルが組み込まれている。そこらへんが、これまでの作品と違って若干読む気を誘ってくれる。
以下「考速」から引用
いたりしはなをよばぬはな 到りしは名を呼ばぬ花 射たりし花、及ばぬは名 うしおいてつきこえはしりぬく 牛追いて月越え走り抜く 潮凍てつき声は知りぬく そのここのえのころもつくろう その子この絵の頃、持つ苦労 その九重の衣繕う このはてにさいはいきてわかれいけり この果てに犀は生きて別れ生けり 木の葉手に、幸い来ては枯れいけり しおもてなおさむからんおうのみぎわ 死をもてなお寒からん王の汀 塩もて直さんか卵黄の右は いしまいるともうすらひをふみゆきたり イシマイルと申す雷王見ゆ、来たり 石参る友、薄氷を踏み行きたり 夏 彼の夏の日 彼女の夏の休日 彼女と夏の旅休日は 彼女と別の夏の旅行、休日はずし 彼女と別れの夏の旅行に、休日はずしり そうさそうそうさそうさされそうされる そうさ、そう操作、そう刺され、そうされる そう誘う、そう誘う、刺されそう、される あくるひすいかわらずにくらし あくる日西瓜割らずにくらし 飽くる翡翠変わらず憎くらし それらはにかよいあいしあう それら鰐通い合い、試合う それらは似通い愛し合う みなのためしあわせのみちとほねにあり 御名の為、幸せの道、遠嶺にあり 皆の試し併せ飲み、血と骨に蟻 ひとつかみあみあげんとおきへめぐり 一つ神編みあげん、遠き経巡り 一掴み網あげんと、沖へめぐり このおとこのことばかりとしていとわぬもちきたりししおもたらさむとておわる こと男のことばかりと師弟問わぬも稚気たり、獅子尾をも垂らさんととて追わる この音、この言葉、狩りとして厭わぬ、持ち来たりし死をもたらさんとて終わる
「後藤さんのこと」円城塔 著 ★★★ 早川書房 |