「ハーモニー」
伊藤計劃 著 ★★★★ 早川書房
この小説は息子の本棚から拝借してきた。 文庫本のカバー表紙には、白地に黒文字で、こう書いてあるのみ。 なんともシンプルなデザインである。 ハーモニー 伊藤計劃 (harmony/) Project itoh。最初は作者の名前をどう読むのか、わからなかった。 息子から聞いて初めて知ったのだが。 言われてみれば「Project itoh」の意味も納得できる。 そして、作者の運命を知ったとき、その意味の深みに気付かされた。 伊藤計劃 2009年3月没、享年34歳。
SF小説に冠される名だたる賞を獲得したこの作品。SFというよりはファンタジー、ファンタジーというよりは心のうちをさらけ出した独白に近い印象を受けた。そういう意味では限りなく文学的なSF小説と言える。使われているSFの手法は先に読んだ藤井大洋の「Gene Mapper(full build)」 と似ている。現代技術の延長線上の未来技術によって世界が築かれている。想定外のSFではなく、もしかしたらそんなことも可能かもしれないと思わせるSF度。逆にいえば、あらゆる分野において現代の技術革新のスピードがすさまじく速く、SF的要素もその先に内包されても不思議ではないと簡単に思えてしまう。 加えて、現代社会を覆いつくしている「やさしさ」が全編を通して漂っている。昔のSFとはSFの質が随分変わってきたんだなぁ、と思うことしきり。
「ハーモニー」 |