「インドクリスタル」
篠田節子 著 ★★★ 角川書店
小説はあくまで作りものであって、そこに書かれていることが必ずしも現実のことであるとは限らない。ということは頭でわかっていても、社会現象をモチーフとしている作品ではある程度の真実性がないと面白みも半減してしまう。 本作品は文字通りインドが舞台。高性能水晶発振器の素となる高純度の水晶原石採集をモチーフとした物語を通してインド社会とインド人そのものに焦点を当てている。本当にこれが真のインドの姿なのかと思わされる場面がこれでもかこれでもかと言うくらい出てくる。
作者自身がインドに赴いて肌で感じた体験が基になっていると思うのだが、ここまでインドという国は不可解な文化を内包しているのかと思ってしまう。 私がインド訪問した頃なら、それは30年も前のこと、作品で描かれているインド人社会の不可思議さは素直に頷くことができた。自分もそれを目の当たりにしたことがあったからだ。しかし、本作品の時代設定はかなり現代に近い。冒頭に書いた小説の原則が正しいとするなら、当時私が感じた不可思議さが今も変わらないということになる。 篠田節子は我々が理解し得ない文化がそこに存在することをさらけ出し、その文化との共存をテーマとした作品が得意だ。アウトカーストとして生きる部族民の悲惨な生活が生々しく描かれ、理解するという言葉が不遜に思えてしまうほどの現実がそこにあることを思い知らせてくれた。
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