「漂民次郎吉」太平洋を越えた北前船の男たち
津田文平 著 ★★★ 福村出版
実話を題材とした小説だが、同じ難破を扱った「ジョン・マン」「漂流」から比べると、面白さはやや劣る。北前船を駆って、蝦夷から薩摩へ昆布の密貿易を企む、というおなじみの出だし。普通なら、北前船は西廻り航路を行くが、太平洋を陸伝いに行く東廻りの方が距離も短く、時間も短縮できる。今回次郎吉が乗った北前船はその東廻り。ところが、船頭もかつて経験したことのない時化に遭遇し、船は大破、乗組員は一瞬にして「漂民」となる。作品はその遭難の一部始終とロシア船に助けられ、帰還するまでを描いている。
小説としての面白さに欠けるのは、淡々と「漂民」を綴っている点にあるのだと思う。作者が地元紙OBというから、それも納得のいくこと。作り話とまではいかなくても、物語に幅と膨らみを持たせる工夫が欲しかった。
「漂民次郎吉」太平洋を越えた北前船の男たち 津田文平 著 ★★★ 福村出版 |