「LISTENING IN 」邦題「ジョン・F・ケネディ ホワイトハウスの決断」
テッド・ウィドマー編集 ★★★ 世界文化社
「副題としてケネディ・テープ 50年後明かされた真実」とある。 キャロライン・ケネディ氏の駐日大使赴任と期を同じくして発刊された本書は、偶然なのかタイムリーなのか。彼女が序文に父に対する思いを綴り、本書への謝辞で締めくくっている。 大統領がその時々に見せた表情をとらえた写真もふんだんに掲載されており、テープの内容に、より臨場感を与えるのに役立っている。 本書はケネディが大統領就任時代、1962年から非望の死を遂げた1963年11月まで、自ら執務室に設置した隠し録音装置と電話録音機のテープを文章に起こしたものである。その録音時間は256時間にも及ぶ。そのテープはケネディ大統領図書館に保存されており、公開され、いつでもネットから閲覧できるという。ケネディ大統領就任50周年にあたり、その膨大なテープの中から最も強力で重大な部分を選出し、2枚組のCDにまとめられたのが本書である。その編集にテッド・ウイドマーがあたっている。 ケネディ伝説の舞台裏となった「大統領執務室」で、ケネディが誰とどんな話をしたのか、とても興味深い。生の声と会話から、ケネディのビジョンと人となりにより近づくことができるからだ。そこには確かに、大統領と数多くの相手方との忌憚のない会話がみてとれる。だが、相手方には録音のことは知らされず、ケネディだけが録音されていることを承知の上で事に臨んでいるのだから、はたして、それが本当に心から発した「何も包み隠すところのない肉声」なのか、あるいは、後々問題となることがあったときに備えての「言い訳」となる発言であったのか、疑問がないでもない。大統領の発言や大統領との会話は録音されていることが周知のことである現在とでは、録音テープの持つ意味合いは、ケネディのころとでは違って来るのでのではないか(相手方が録音を承知の上で話しているか否かという点で)。 会話の途中にケネディの子供たちがときどき執務室に「おじゃま」してくるのだが、そのときのやり取りがとても微笑ましい。なかでも、ソ連との冷戦たけなわのころ、ソ連のグロムイコ外相との会談のおり、そこにも子供たちが入ってきて、そのときのグロムイコ外相の破顔した表情が会話からみてとれて、笑ってしまった。 本書にはケネディが力を注いだ様々な問題に関するエピソードが記録(録音)されている。中でも興味を引いたのが「公民権運動」と「キューバ・ミサイル危機」について。残念ながら「ベトナム戦争」では目立った功績がなかっただけでなく、エスカレーションへの口火を抑えられなかったこともあってか、その内容は乏しい。くしくも内政と外政とについて、ということになるが、双方ともケネディが歴史の渦中にあって、新たな歴史を作っていったことを物語っている。決してケネディだけが歴史を作ったのでなくて、「歴史は導かれるように築かれていく」のだが、ケネディがそこにいなくては歴史はそうはならなかったかもしれない。そこにケネディがいたことの必然性を新たにした。
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