「光圀伝」
冲方丁 著 ★★★★★ 角川書店
幕末の動乱を描いた小説を読んでいたら、キーワードがいくつか出てきた。というか、キーワードがどんどん増えてきて、それらが何を意味し、どう有機的に作用しているのか混乱するばかり。そのキーワードに「水戸学」「水戸藩」「藤田東吾」など水戸関連クラスタがあって、それに関わる本をいくつか読んでみたが、頭の中のもやもやは一向に晴れない。どうも「水戸」の鍵は「水戸光圀」にありそうで、手に取ったのがこの一冊。
想像していたより面白い作品だった。人物が人物だけに切り口はいろいろあるのだろうが、「水戸」初心者にもわかりやすく十分楽しめる作品だった。幕末動乱の一担い手となる水戸藩だが、ことはその時の水戸藩主だけではなく、水戸藩設立当初から絶えることなく受け継がれてきた遺伝子に関わる問題だ。そんな中で、水戸光圀を描くことはその前の水戸藩、その後の水戸藩を描くことになる。この作品で人間光圀は完全に自分の頭の中に形成された。徳川幕府250年の中で、「水戸」の居場所はどんなものだったのか、そして幕末動乱のジグゾーパズルの中でどこに当てはまるのかをこの作品が示唆してくれた。
「光圀伝」冲方丁 著 ★★★★★ 角川書店 |