「掏摸(スリ)」

中村文則 著 ★★★★ 河出書房新社

中村文則を読んでみたいと思ったきっかけは、彼がNHK朝のラジオ「すっぴん」のゲストとして出演していたことだった。そのとき初めて中村文則を知った。そこで取り上げられていたのが本作品の「掏摸」。水道橋博士が番組のパーソナリティーとして中村文則を評して、まだ若くして芥川賞をとって順風満帆の彼に対して、「今は何をやってもうまくいっていると思うけど、これでいいんかなと思う時がきっと来る」と年寄りの小言のように話していた。それに対して中村文則の反応は「自分はまだそんなに苦労していないから、そんな気持ちはわからない」と。 この作品は、彼の小説の中でもっともストーリー性があって、かつミステリー仕立てになっている。だが、そこに描かれているいくつかの挿話がやや唐突な感じがする。挿話自体の完成度は高いのだが、その繋がりに若干の違和感が感じられる。 その違和感を埋めるための続編があるのではないかという気もした。実際、最後はそれをうかがわせる終わり方。テーマとしての拡張性もあり、そういう意味でも続編を期待させる作品であった。

「掏摸(スリ)」

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