「ザ・カルテル」
ドン・ウィンズロウ 著 ★★★★★ 角川文庫
メキシコ麻薬戦争を迫力満点で描く。 これでもか、これでもかというくらいの殺人と暴力の連続。それも虫けらを扱うごとく平然と行われていく。そして巨大な金が動く闇の世界。 麻薬カルテル間の抗争はモグラ叩きに似ている。誰かがやられれば、誰かがそのシマを獲る。他のカルテルのシマを通るときには通行税を払わなくてはならない、それを怠ったときにはそれ相当のしっぺ返しがくる。やられればやり返す。そんないつ終わるともしれない構図と恐怖の連鎖が40年以上も続いている。 地元警察も麻薬取締官も州警察もみんなカルテルに一枚かんでいる。監獄に入れられても親分はホテルのスウィートルーム並みの優雅な暮らしができる。制裁を加えるときはみんな一緒だ。トカゲのしっぽを切ってもトカゲは生き残る。濁ったバケツの上澄みをすくっただけではバケツの中はきれいにならない。メディアもうかつに手を出せない。命を賭して闇の世界を暴いてみせても、一つの細胞が死ぬだけで、次の細胞がすぐに芽生えてくる。引き換え、そのたびに、メディア側に多くの犠牲が出るのではたまったものではない。そういうドロドロ状態のメキシコから本当に麻薬カルテルを排除できるのだろうか。そんな印象を強く抱かせた本書だった。 奇しくも今、フィリピンでは大統領が麻薬組織壊滅に向けての荒療治の展開中で、アメリカでは大統領選でトランプ氏が勝利し、メキシコ国境沿いに万里の頂上を築くと豪語している。はたして現実の世界はどう動くのだろうか。
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