「アメリカン・デス・トリップ」
ジェイムズ・エルロイ 著 ★★★ 文藝春秋
前作ほどの衝撃はない。それほど一作目の破壊力は凄かった。 キューバ危機とジョン・F・ケネディの暗殺を主題とした物語はヴェトナムのエスカレーション、マーティン・ルーサー・キングとロバート・ケネディの暗殺を舞台とした物語へと移っていく。 前作から一貫して描かれているのは、マフィアとFBI、CIAと麻薬を絡めた裏社会の暴力。今回はそこにヴェトナム戦争によってもたらされた軍の暗部が加わって、ドラマ、人間関係ともにより複雑になり複層さが増している。 場面が刻々と変化していくなかで、ただでさえ読みづらい文章なのに、細やかで緻密な場面の動きを必死に理解しようと読み進む。しかし、読み終えてから作品全体を俯瞰してみると、複層したプロットの全体像が見えてくる。暴力的で破壊的な場面場面に一喜一憂しながら、そこにこだわって読むだけではこの作品のスケール感が見えてこない。絵画から少し離れて観賞する感覚とよく似ている。 ただ、前作よりは理解しやすく、読みやすくなったのは間違いない。
「アメリカン・デス・トリップ」 |