「ナポレオン」全3巻 佐藤賢一 著 ★★★★ 集英社

投稿日時 2023-9-15 8:14:31 | トピック: 本棚

冒頭と末尾は誠に格調高い筆使いだ。特に冒頭に描かれたナポレオンの荘厳な戴冠式からはこれから繰り広げられる物語への期待感が高まる。が、それ以外は作者の真骨頂ともいえる漫画チックな文章。現代風な口語体の表現が空振りしているように思え、違和感を覚える。スケールは大きく、ナポレオンと彼の生きた時代を端的に捉えていて、歴史小説としては秀作だと思う。

ナポレオンの邁進ぶりは、マケドニアのアレクサンダー、三国志の曹操を彷彿させる。とにもかくにも前進あるのみ。三者に共通するのはただ単に偉大な統率者という点だけではなく、三者とも海戦に弱点があり、それを克服すべき手を打っていったということ。

この作品を通して、当時のフランスの立ち位置というものを改めて理解することができた。また、すぐ後に起こるクリミア戦争へのフランスの関りも、歴史的な流れということから十分に納得できるものであった。ただ「クリミア戦争」だけをみていては気付かなかった点である。歴史は突然起こる点ではなく、線の延長戦上にあるということを再認識させてくれた。



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