「エヴェレスト 非情の最高峰」★★★★★ ブロードン・コバーン 著 ナショナル・ジオグラフィック 

投稿日時 2016-2-18 18:02:37 | トピック: 山の本



1996年5月10日、エヴェレストで起こった悲劇について伝える本の四冊目。

なんとこの本は三重県からやってきた。うちの町内にある富山市立図書館の分館で尋ねると、取り寄せてくれるとのことだった。お隣の石川県あたりから来たのかと思ったら、その出所を耳にして驚いた。最近の図書館広域連携がここまでいっているとは・・・。IT革新の恩恵はこうゆうところにまで及んでいる。しっかりとした分厚いナイロン袋に入れられており、貸し出す前に本の状態を確認、返却時に再度確認するという念の入りよう。もちろんブックポストなどに入れてはいけない。それはそうだろう、他県から届けてもらった本、それも貴重な一冊、返却時に汚れや傷があったら大変なことになる。

ハードカバーの重厚な本書は、さすがナショナルジオグラフィック社が創っただけあって、写真もふんだんに用いられている。悲劇の中心にいた公募登山隊のロブ・ホールとスコット・フィッシャー両隊の模様も写真とともに伝えられればより臨場感が湧くというもの。前に読んだ三冊に出てきた過去の遭難者でエヴェレストの高所に置き去りにされたままの『ブルーマン』も載っていて、文字だけでは伝えきれない写真の威力をまざまざと感じさせてくれた一冊であった。

前三冊では悲劇の当事者が生々しい真実を語っているが、本書は当時一緒にエヴェレストにいて行動を共にしていた映画撮影隊IMAXの隊員からの取材を中心に据え、エドモンド・ヒラリー他多くの著名な登山家からのコメントも添えて、できるだけ客観的に本件を捉えようとする姿勢がうかがえる。

当初、IMAX隊は悲劇の起こる前日に頂上アタックする予定になっていた。しかし、一日遅れて登って来るであろうロブ・ホール、スコット・フィッシャー両隊と下山時にかち合うことによる混雑からくる不測の事態を避けるためと、撮影隊だけが登場するきれいな映像を撮りたかった、この二つの理由からアタックを後日にずらしていたのであった。はたして、彼らの予感が的中し両隊はヒラリーステップ付近で大渋滞を引き起こして、その後悲劇への道を歩んでいくことになった。

そして、救出劇のあと、数日置いてIMAX隊は態勢を立て直してアタックに出て、無事エヴェレスト登頂の映画撮影に成功する。迫力満点の映画は世界中に配信され日本でもかなりの反響を得た。(その映画のことはおぼろげながらも自分の記憶に残っているが、当時は、まさかその映画の影にそんな出来事があっとは露にも思っていなかった)

本書ではこの5.10の悲劇の要因について次のように考察されている。

‖神ゆえのもろさ
多勢で登るのだから、事故が起こったら助けてくれる人間がいるかもしれないという考えに陥りがち。結果、遭難の前にいくつかの前兆がありなから、だらだらと進んでいってしまった。
経験不足
公募登山隊が即経験不足とは言えないが、そういう客が含まれていたことも事実で、ガイドの経験不足も本件の悲劇を拡大させた要因の一つ。
2嫉鎧刻の徹底
これはベースキャンプに入ったときから、経験豊かなロブ・ホール、スコット・フィッシャー両隊長らから口を酸っぱくして言われていたという。アタック時点になってなぜその下山時刻が徹底されなかったのか、事故は往々にしてそんなときに限って起こる。というか起こるべくして起こったとも言える。
つ命システムの不備
トランシバーを持っている者が限られており、ベースキャンプからは上部で何が起きているか把握しきれていなかった。命からがらサウスコルに下りて来てビバーク態勢に入っている隊員たちの状況も全くわからなかった。
ヌ技請任任離イド
強靭なガイドであるブクレーエフはエヴェレストアタックにおいても無酸素での行動になんら問題はないと言いきり、無酸素で登頂し、その後も一人で大勢の顧客を残したまま下山する。サウスコルに待機して、万が一の時に備えるため、と述べている。しかし、やはり、彼の取った行動は理解しがたい。この点は「空へ INTO THIN AIR」の著者であり悲劇の当事者でもあるジョン・クラカワーも指摘している。
μ鄂瓦罎┐量桔
何事も『野心=挑戦心』なくては成し得ないが、山においては、それは『無謀=遭難』との紙一重の位置にある。登って無事降りてきてこそが山登り。野心だけが先行すると、状況判断に陰りが生じてしまうことがおうおうにしてある。今回の悲劇はその典型的な例といえる。なんとしても登頂したいという気持ちだけで、心身ともに極限状態で登頂を果たしたとしても、下りの力はすでに残っていない。エヴェレストのような死のゾーンにあってそれは無謀に等しい行為といえる。

インタヴューに応えて、エドモンド・ヒラリーは言う。
『すべてが順調に運ぶ限り、エヴェレストはかなり登りやすい山だ。自分あるいは自分の同行者が死ぬかもしれないという事実はエヴェレスト登頂をあきらめさせるどころか、続けさせる原動力にもなる』

そのような死と紙一重の状況での登山がエヴェレストに人を向かわせる魅力の一つなのかもしれない。

5.10エヴェレストの悲劇について書かれた四冊の本はすべて異なる視点から描かれており、それぞれにおいて興味深く、考えさせられる内容だった。



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