本棚 : 「ウインディ・ストリート」サラ・パレツキー 著 ★★★ 早川書房
投稿者: hangontan 投稿日時: 2017-7-7 13:45:15 (350 ヒット)

サラ・パレツキーの作品は探偵小説という範疇に入るのだろうが、ミステリーの謎解きより、事件の背景にある社会問題を捉えた社会派小説の印象が色濃い。今回は貧困と格差社会に焦点をあてている。アメリカという国にあっては、貧困から脱するチャンスは誰にでも与えられている。だが、現実は厳しい。貧困家庭に生まれた子供は、学業をこなすのも容易ではない。アルバイトをして家計を助けながら学校へ行く。部活をやっていれば、勉学がおろそかになるのは否めない。貧困世帯が住まう環境はドラッグやギャングスタからの誘惑も多く、子供たちがその道に通じていくのは自然の流れともいえる。まさし貧困の連鎖、格差の連鎖は現実に存在する。

日本でも格差の連鎖を感じることは多々ある。東大や有名大学への進学家庭のおおかたは裕福である。そこを卒業したものにはそれなり進路が約束されている。百パーセントそういう訳ではないけれど、そうした流れはたしかに存在するように感じる。

ただ、アメリカと日本との違いは、アメリカでは貧困が生む負の面が際立っている点だろう。ドラッグ、セックス、暴力、殺人といった社会のマイナス面が貧困と直結している場合が多い。

本作品では、主人公のV.Iはそういう貧困家庭や子供たちを差別し陥れようとする巨大なものと敢然と立ち向かう。V.Iと子供たちの名演技には光るものがあるが、敵となるリッチな悪役が定型的すぎたのが少し残念

印刷用ページ このニュースを友達に送る