本棚 : 「雪」オルハン・パムク 著 ★★★★ 藤原書店
投稿者: hangontan 投稿日時: 2022-11-2 12:20:31 (78 ヒット)

オルハン・パムク、三冊目。その内容は、いずれもトルコとイスラムにとても固執している。本書で出てくるのは、「政治的イスラム」という聞きなれない言葉。イスラム教が多数を占めるトルコにおいて、政教分離が内包する危うさを問うている。国家としてはイスラムを前面に押し出さないことを政治信条としているが、それに従うことは個人的にはイスラムの教えと矛盾することが多々ある。トルコ人の多くはその辺を曖昧にしながら暮らしている。しかし、政府の直截的なやり方になじめない人がいることも事実で、そういう人々は「政治的イスラム」として自分を主張する。彼らの中には反政府的な行為をとる者も出てきて、またそれらに対抗する輩も出現する。本書はトルコ辺境の地、まだ「トルコらしさ」が残っているとされるカルスという小さな町で起こった出来事を通して、トルコとイスラムについて深く考えさせる。
一文が長く、また二人称なのか三人称なのかよくわからずに読んでいて、はたとそれに気づくこともあった。邦訳の仕方によるものなのか、原文のニュアンスをそれがうまく伝えているのかわからないが、前に読んだ「イスタンブル」と同様な「憂愁(ヒジュン)」が感じられた作品であった。

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