本棚 : 「クリミア戦争」 オーランド・ファイジズ 著 ★★★★★★★ 白水社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-3-8 9:44:31 (56 ヒット)

昨年のロシアのウクライナ侵攻に触発されて手に取ったということもあるが、自分の興味の流れから辿り着いた一冊でもある。キリスト教の色合いが濃いウンベルト・エーコの小説がその発端で、以後、十字軍、トルコ文化へと導かれ、そして行きついたのが本書であった。

日本の歴史年表には「クリミア戦争」と、たった一行載っているだけで、名前だけは知っていても、それが歴史的にどういう意味があったのかは何にも知らなかった。本書では、実に詳細に、膨大な史料を駆使して、順序だてて、それに関わった国々の事情なども精査しながら、戦争の実態を描いている。かつ、一つも漏らすことがないようにと調べ上げたエピソードが柔軟剤のような役目を果たしていて、飽きのこない歴史絵巻、ノンフクションでありながら、大河ドラマのようなスケールの大きな読み物となっている。

訳者あとがきに「戦闘の現場に戦争報道記者と戦争写真家が登場したのは初めてであった」「国民世論が戦争遂行にとって決定的な役割を果たすことになった」とある。翻って、今般のロシアのウクライナ侵攻ではネットが重要な役割を果たし、居ながらにして瞬時に遠隔の地の状況を知ることができ、全世界の世論の醸造に役立っていることを想うと、歴史の不思議な巡り合わせに感慨を覚えずにいられない。

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