本棚 : 「陽暉楼」
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:12:10 (544 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★★★★ 宮尾登美子全集 第五巻  朝日新聞社

最初は旧仮名遣いに戸惑ったが、しだいに慣れてくる。
昭和10年、四国山脈を縦断する土讃本線(高知〜高松)が全線繋がった。その祝賀式に花を添える『 陽暉楼』お抱えの芸妓の一人である房子は、身重でありながらもひたすら舞の稽古に打ち込む。しかし、全線開通のその日から、房子の運命が急転する。
『 陽暉楼』は太宰治賞を受賞した『櫂』にも登場する高知きっての大料亭である。『櫂』では、『 陽暉楼』に芸妓を斡旋する店に嫁いだ貴和の半世紀が描かれていた。ここでは『 陽暉楼』の子店の浜むらが舞台で、房子はその看板芸妓である。いつもながら、主人公と係わりのある人、風景、町の風情、四季の移ろい、が細やかに自然体で描かれている。読んでいて非常に落ち着く文章だ。順風満帆に思えた主人公の運命があるときを機転として次第に傾いていく。どうにもならない宿命に身を任せつつ、懸命に歩もうとする房子。これは『櫂』でもそうであったし、『一弦の琴』でも似たような印象がある。
落ち着きたいときは、宮尾登美子かな。

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