本棚 : 「推理小説」
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-6-5 5:04:14 (420 ヒット)

秦建日子 著 ★★★ 河出書房新社

旅先で昼間何気なくテレビを見ていたら、思いの他引き込まれていった推理物のテレビドラマがあった。それが「アンフェア」の再放送だった。それも初回からではなく、途中の2回目だか3回目ぐらいからで、誰が犯人だか本当に見当がつかない。しかも、最終回までは見ることができなかったので、犯人は分からずじまい。筋もしっかりしていて、配役もはまっている。よく出来たサスペンスだ。主人公の篠原涼子の刑事役がまた破天荒かつ魅力的で、新しいヒロインの登場といったところか。しばらくして家に帰り、ネットで調べてみて、今年の春に放映された本放送でもかなりの人気と視聴率を得たらしいことを知った。ちゃんとしたものを作くれば、みんなが共感できる作品に仕上がっていくということの証であろう。
ドラマのエンディングには原作となった本書と著者が流されていて、これはなんとしても読まねばならぬと思った。これまで小説を読んでいて、これがスクリーンに写し出されたらさぞ楽しいだろうなと、思ったことは幾度もあるが、その逆のことはほとんど思い当たらない。しかしなぜか、このドラマに限って、原作を読んでみたいという衝動にかられた。話の結末を知りたい、という気持ちもあって、わくわくして手に取った。ところが、その日の夜「アンフェア」の特別バージョンの放映があった(この偶然の一致はいったい何ののだろうか)。これは見逃せないと思い、眠たいのを我慢して見ることにした。そこでは、前シリーズのフラッシュバックが前振りとしてあって、なんと犯人が分かってしまったではないか。そんな状況の中で、読んだ一冊だった。
驚いたことに、ドラマの中では原作がほぼ忠実に再現されていた。逆に本書を読んでからドラマを見たとしてもさほど違和感は抱かないであろう。と思う。文章は劇のト書きとセリフを思わせる書きぶり。むしろ劇の脚本に近い感じ。著者はシナリオライターなので、こういう書き方が自然体なのかもしれない。読み進むにつれて、ドラマのシーンが頭の中に呼び起こされ、文章から受けるイメージと交錯する。なにか新しい本の世界を味わった感がある。

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