本棚 : 「仁淀川」
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-6-7 6:05:04 (433 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★ 新潮社

「櫂」から始まる3部作に引き続き、少し間を置いて書かれた続編。満州から文字通り裸一貫で引き上げてきて、やっとのことで辿りついた故郷。そこにとうとうと流れる仁淀川を見て、綾子は生きて帰り着いたことを実感する。そこで一年ぶりにつかる風呂。本来ならえにも言われぬ幸福感に満ち溢れるはずなのだが、綾子には全くそれが感じられなかった。そして、息つく暇も無く、日々の生活に追われていく。
先の作品の回想を散りばめながら、話は進行し、いつの間にか農家に嫁いだ綾子の物語へと移っていく。そしてそれは、母の喜和との通い合い、父岩伍の余生のことどもを交えた話と絡み合い、「櫂」シリーズの幕引きへと向かっていく。出だしと最後の一文が印象に残る作品であった。
ネット上の書評には続編をのぞむ声も聞かれるが、この物語はこれで終わりではないだろうか。喜和と綾子と岩伍の三人があってこその「櫂」だと思う。

印刷用ページ このニュースを友達に送る