本棚 : 「ソウル・コレクター」 ジェフリー・ディーヴァー 著 ★★★★★ 文芸春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-10-29 6:53:33 (459 ヒット)

このところ、リンカーン・ライムシリーズはやや低調だった。しかし、今回は久しぶりのヒットという感がある。よい作品は出だしから引き込まれるものがあるが、本書もから冒頭からぐいぐい引っ張ってくれる。モチーフとなっているデータマイニングというテーマも時流に乗っていて、グッドタイミング。
それが必要であろうとなかろうと、我々はデジタル情報とは無関係ではいられない。携帯電話の履歴、インターネットを通じたやり取り、テレビショッピングのやり取り、ATMや銀行での取り扱い情報、プリペイドカードやスーパーの会員カードからの買い物情報、ETC利用による位置情報、病院からは病歴、年金や税金の支払い履歴などなど。それらの情報はすべてデジタル化されている。物流も同じこと。あらゆる製品にICタグが埋め込まれ、何が何時どのような状況に置かれ、どのような経路を経て、今誰の手元にあるかがわかるようになってきている。それは人間が生まれてから死ぬまでのデータ管理の可能性を示唆している。ゆえに、データは金になり、データマイニングという分野が生まれてきた。
そこに何かあるかはわからないが、それらのデータをかき集めたものをメタデータという(らしい)。そこにはありとあらゆる個人情報が残されている。仮に個人Aのメタデータを手に入れれば、分析によって、その個人の行動をパターン化して予測することも可能。いつ、どのようなタイミングでDMを送れば買ってくれそうか、などということにも利用できる。また、テロリストの動向をチェックして、事件を未然に防ぐことにも役に立つ。実際、最近の事例で、ある種のデータからテロ計画を察知し直前でそれをくいとめたという報告もある。要するにデータを制するものはとてつもない力を得るということである。
今回の悪役はその「全てを知る男」。データを自由に操ってライムの前にたちはだかる。なかなか手ごわい。

印刷用ページ このニュースを友達に送る