本棚 : 「ブラッド・メリディアン」コーマック・マッカーシー 著 ★★★★★ 早川書房
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-11-19 20:41:05 (508 ヒット)

「ブラッド・メリディアン」直訳すると「血の子午線」あるいは「血の絶頂」となるのだろうか。それほどこの作品は血にまみれている。血と暴力と虐殺が全編通して描かれている。テーマは重たいのだが、その描写はあくまでも淡々としている。あっと、思う間もなく拳銃が抜かれ顔がふっ飛び、ナイフで体をえぐられ死人の顔の皮がはがされていく。残酷なシーンなのだが、それを残酷と受け止める気が麻痺しているかのような乾いた空気が全編を包む。
「すべての美しい馬」「ザ・ロード」と、全くの予断なくして、マッカーシーの作品を手に取ったが、いずれも読みごたえのあるものだった。三作品ともに共通するテーマは「旅」と「自由」。どの作品も彼独特の文章使いで描かれている(超絶技巧的な筆致)。すなわち、「」、読点がない文体。それゆえ、一文一文がとても長い。特に本作品ではそれが著しく、全く読点がないまま四行五行という文章もざら。一見、まどろっこしく感じられ、斜め読みしたくなるのだが、よく読むとその長い一文はとても意味が深いものばかり。一つ一つが詩を成していて、その連続体で作品が仕上がっている。また、マッカーシーの作品は知的好奇心を刺激するものではない。目新しいものがあるわけでもない。書かれたものをそのまま素直に丁寧に拾っていって、そこに広がる宇宙を堪能する。それでいて、どの作品も映像が目に浮かんできて、映画化への期待を抱かせる。独特な世界である。

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