本棚 : 「またあう日まで」ジョン・アーヴィング 著 ★★★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-4-7 19:06:18 (379 ヒット)

「ガープの世界」で必殺の一撃を食らったジョン・アーヴィングの本としては二作目。この作品も長編。訳者自身あとがきで書いているが、確かに長い。しかし、長いわけには理由があった。上・下二巻からなる本書は、一つの物語でありながら、二度楽しめる、という趣向がこらしてある。事象の二面性をうまく利用しているという点では、三度楽しめるということにもなるかもしれない。登場人物はどれも主人公を含め想像の域を超えたものばかり。全身に楽譜の刺青が彫ってあるという放浪中のピアニストの父親を求めて、母と幼子がヨーロッパの港々を探し回る。しかも、その母親自体が有能な刺青師。また、手掛かりを探して尋ね歩く先々には超個性的なキャラクターが待っている。そんな彼らが醸し出す世界は当然超個性的というか荒唐無稽。作者は思いつくまま好き放題に書いているかのように思える。スラスラと自然に筆が運んでいっている感じ。もしそうならば、物書きにとっては、この上ない幸せだろう。肩に力の全く感じさせない作品だ。
訳の中で、面白いと思ったのがいくつかあって、そのうちの一つを書いておく。しゃべり方に特徴がある女の子が登場し、「うち」が「くち」に聞こえるという場面が数回出てくる。おそらく原書では「house」と「mouth」ではなかろうかと想像される。英語と日本語の奇妙な一致がおもしろい。

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