本棚 : 「推定無罪」 上・下 スコット・トゥロー 著 ★★★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-5-22 19:29:39 (468 ヒット)

なかなかよく出来た推理小説。大ベストセラーになったのもうなずける。導入部から最後の謎解きまで一分の隙もない。一気に深みに落とされた後は、そのままずーっとその淵から抜け出せない。
下巻の公判部分のやり取りも見ものの一つだが、中盤にかけての主人公とその周りの役者達とが織りなすドラマに引き込まれる。そして、まさかそんなことあるのか、もしかしたらそうなのか、と案じながらページをめくっていると、やはりというか、唐突に主人公に嫌疑がかってしまう。その瞬間がクライマックス。

「推定無罪」とは「疑わしきは罰せず」の意味かと思っていたら、どうも違うようだ。「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」の意味とのこと、この本に接し初めて知った。

序盤からどうも引っかかっていたのがアメリカの検事制度。それがドラマの重要な要素の一つとなっている。どうやら、検事は市民の選挙で選ばれるようだ。読み進むうちになんとなく想像はつくのだが、日本の裁判制度に固着していると違和感は否めない。それと、大きな見どころである陪審員制度による裁判。この物語によると、陪審員はその裁判の判事が選ぶことになっている。あらかじめ用意された幾人かの候補者の中から選ぶのであるが、その選び方が予想していたのとは違っていた。すなわち、くじなどで無作為に選ばれるのかと思っていたが、判事がその裁判に関する自分の予見に合致する意見を持つ陪審員を選ぶことになっている。不当な偏見を持っていることが明らかな者を除外するという意味合いがあるのかもしれないが、判事が抱いた判断に近い陪審員を選ぶことも可能。小説の中では判事と陪審員候補者との事前のやり取りが描かれ、不思議に思った。審理をコントロールするということなのかもしれないが、これが公正な裁判といえるのか。それとも、それほど判事の権限が強いということだろうか。市民の代表たる判事という位置づけは日本のそれとはずいぶん違うようだ。。

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