本棚 : 「有罪答弁」 スコット・トゥロー 著 ★★★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-6-13 5:53:02 (358 ヒット)

読み終わって最初のページを何気なく見てから納得。
最初のページにはこの作品が法律事務所に勤務する主人公のある事件に関する報告書である旨が記されている。だが、そんな冒頭の報告書の一ページがどんな意味を持つのか深く考えるわけでもなく、さらっと流して本文に入っていった。なんのことはない、彼はこの報告書を通して彼自身の「有罪答弁」をやっていた。最後まで読み終えてようやくそれに気付くなんて。

しばらく読み進んでも事件の真相が漠として掴めない。どんな事件が起こっているのか。いったいどうことなんだ、と、次のページをめくりたくなる。そのうち事件は二転三転するのだが、それは視点の違いからそうとれるだけ。しかし、どの筋立てが本当なのかはなかなか読み取れない。読み手は気付かないまま別の違った推理に導かれてしまっている。それでいて陳腐な技巧に走るわけでもない。全部で30の章で構成されているが、その一つ一つをとっても立派な作品として読めるから不思議だ。事件を追って行きながら、実は人間を描いている。トゥローは最初の作品からこの点で一貫している。読み返しにも耐えられる推理小説といえる。というか、推理小説という枠ではくくりきれない不思議な魅力が彼の作品にはある。とにかく読ませてくれる作家だ。

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