本棚 : 「青銅の悲劇」笠井潔 著 ★★★ 講談社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-8-19 6:33:58 (411 ヒット)

芸術性漂う表紙カバーがこの作品には重荷とはならない。読後に余韻が残るような重厚な作品ではないけれど、王道を行く本格推理小説として読み応え十分。

神酒に仕込まれたトリカブトの毒による殺人未遂事件。いつ誰がどんな方法で毒を入れたのか、その謎解きにページの大半が注がれる。「探偵が事件を解決できるのは作者が探偵に耳元でそっと囁くからだ」言われてみればそんな気もする。そんなそしりを免れるべく、作者はあらゆる視点から事件を推論できるようにもくろんだ。すなわち対象となる人物の視点によって事件が動くように仕組んでいる。物語の最後にもその点について登場人物の言を借りて作者は述べている。あらかじめそれぞれの視点や行動を用意しておいて、それらをガチャガチャポンとしてしまえば、元の要素はなかなか解明しにくい。しかし、作る側はそれがわかっているから、話を右に左に持っていっても、最終的には元の要素に辿りつくことが出来る。読者はガチャガチャポン後の姿しか見ていないので、どのような筋道でそれが出来上がったかを推論することはまず不可能。そうなると、いきおい、作者の一人舞台となって、読者乖離となる危険性もはらみがちだが、本作品では、そうならないように、そのぎりぎりをいきながら読み手との駆け引きを保とうとしている。一つだけ難を言えば、後から出てきたフランス女性がいかにも簡単にガチャガチャポンを解いて行くところ。いくら事実に基づいた推論であっても、ちょっとね。本格推理小説の大御所もうら若き女性には甘いようだ。

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