本棚 : 「BT '63」 池井戸潤 著 ★★★★ 朝日新聞社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-9-8 5:49:09 (379 ヒット)

最近ノッテいる池井戸潤の作品を手に取った。どんな作家にも旬という時期があると思うのだが、その間の充実ぶりが作品に現れている。文章に迷いが無く、飾りもしない素直な表現。読んでいて心地よい。企業小説とミステリーとファンタジーを融合させたような内容で、浅田次郎と東野圭吾と石田以良を足して3で割ったような文章と読後感。噂は真実だった。

今自分が見ていること、感じていることが現実なのか、それとも夢の中なのか、誰もが感じたことがあると思う。そんな感覚をうまくモチーフに取り込んで作品に仕上げている。

時は昭和38年、東京オリンピックに沸く、昭和のよき時代。舞台は経営が行き詰まった従業員100人足らずの運送会社。40年前の夢とも現ともつかない世界に、他界してしまっている主人公の父親となって、入り込んでいく。

なかでも象徴的で物語の牽引役となっているのが、運送会社の配送車のボンネットトラック、BT '21号車。そのトラックを使って行われている悪事の真相に主人公の父親が迫っていく。陰惨で凶悪な事件のわりに、ちょっと抜けたところがある悪者。最後にはほろりと涙する場面も出てきて、浅田次郎の作品を彷彿させる。ミステリー仕立てにしなくても良い作品に仕上がったのではないかと思った。

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