本棚 : 「法律事務所」ジョン・グリシャム 著 ★★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-9-30 15:27:10 (355 ヒット)

アメリカの法律事務所の激務ぶりやそれが必要となるアメリカ社会の仕組みを垣間見させてもらった。

税金逃れのため、カリブ海の島国に会社を作って、そこと取引があるかのように見せかける。法の目をかいくぐる複雑なお金の動き。そのために必要となるのが法律事務所。高額な税金を払うくらいなら、弁護士にかかる費用など安いものだ。廻す額が大きければ大きいほど弁護士報酬も大きくなる。税務専門の法律士事務所が繁盛するのはそのためかとも思わされる。もし仮にそのお金がマフィアからのアンダーグラウンドのものでも、敏腕弁護士の手にかかったら、資金洗浄はわけもないことなのかもしれない。いかにもアメリカにありそうな話。

ハーバードを優秀な成績で卒業した主人公ミッチは、破格の待遇でメンフィスの法律事務所に迎えられることになる。会社は優良な顧客を抱え繁盛しているが、良い顧客ほど要求も厳しく、そのためにどの社員も寝る間もなく、家庭を犠牲にして仕事に打ち込んでいる。税務指南役の弁護士家業は恐ろしく忙しい。しかし、やった分だけ報酬がついてまわる。違法すれすれであっても、それが儲かる職業であることは間違いない。だが、疑問なのは、なんでそんなに儲かっている弁護士事務所がマフィアの裏工作をしなければならないのか。殺人まで犯して。そんなことをすればにらまれるのに決まっているのに。その点がどうにも引っかかってしょうがなかった。“始まりは小指から”ということなのだろうか。もっとも、表家業のほうもあやしいといえばあやしいのだが。

法律事務所の裏家業を嗅ぎ付けたミッチは、事務所から、そして大元のマフィアから命を狙われる。見所はミッチと彼らとのだましあい。ミッチは犠牲となった探偵のパートナーや島のクルージング・インストラクターを見方につけて、着々と逃走の手はずを整える。頭脳明晰なミッチが次々と打ち出す作戦にハラハラ、ドキドキ。助け船を出そうとするFBIをも煙に巻いてしまう。

頭を唸らさせる伏線というものはあまりなく、比較的ストレートな話し運び。テンポのよさでぶっちぎり、といったところ。「あはは」で終わってしまうところが、ちと残念。

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