本棚 : 「オレたち花のバブル組」 池井戸潤 著 ★★★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-10-16 7:45:53 (307 ヒット)

半沢は東京中央銀行の営業第二部次長の席にいた。
今回任されたのは年間売上八千億円の伊勢島ホテル。そこは創業一族の湯浅家による世襲制で、名門であることがゆえに時代にマッチしない社風と経営が負の遺産として顕在化しつつあった。運転資金として二百億円の融資が行われたが、運用の失敗で百二十億円の損失を計上してしまう。このままではメインバンクである東京中央銀行にも影響が及んでしまう。

一方、半沢と同期の近藤は激務につぶされ精神を病み、一戦離脱を余儀なくされていた。経理部長として出向していたそのメーカーの経理上の不正を発見し、それを探ろうとする。そのことがきっかけとなり、近藤は息を吹き返し始める。

以上、二つの物語が重なるようにして進行していく、二社合併して出来た東京中央銀行内の旧行員間の軋轢、そして金融庁検査の検査官との対決。やがて、それらがすべて一つの物語に収束する。この作品でも露になる銀行業界の知られざる世界、金融のからくり。これら筋立て自体の完成度もさることながら、悪者の描き方に独特のものがある。何故か完全に憎めない。そして、お約束の”ほろり”とする場面。そこには計算づくで仕組まれたこざかしさが全く感じられない。ごく自然体の筆運びが池井戸潤の真骨頂である。それが十二分に生かされた作品に仕上がった。

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