本棚 : 「空飛ぶタイヤ」 池井戸潤 著 ★★★ 実業之日本社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-10-30 17:56:34 (436 ヒット)

池井戸潤の作品は類型的だ。そのパターン化された構成が心地よい。

中小規模の会社が事件に巻き込まれ、その社長はどん底を見る。まじめで一徹なのが共通項。社員や家族との語らいが涙を誘う。

しかし、事件にはとんでもない裏が。その真相をつきとめるべく社長は走る、走る。一方、裏に潜む悪の中に見え隠れする葛藤。そこに絡まるのが、これもまた絵に描いたような悪役と良い者のバンカー。皆、己の信ずるもののために動く。それが時として人間の弱さから出てくるものであっても。そして、一気呵成にやってくる最後。

パターン化されていながら、決して予定調和に陥らない池井戸潤の世界、さわやかな読後感、不思議な作家だ。

しかし、今度の悪はちと手ごわい。

事件は運送会社に起こった。配送大型トラックのタイヤが外れ、それが歩道を歩いていた親子に激突して、母親が亡くなった。事故を起こしたトラックの製造会社、ホープ自動車が今回の悪役。

このホープ自動車、財閥系として、ホープ重工、ホープ銀行、ホープ商事とともにグループを形成する。ここまで書けばあの自動車会社かと想像するのは自分だけではあるまい。というより、関連付けるなと言うのが無理な話。なにしろ車のエンブレムが楕円を三つ重ねた「スリーオーバル」。

走行中の大型トラックからタイヤが外れることが多発し、大問題となったことがあったが、その事件の裏にこんな物語があったとは。本当なのだろうか。それにしても、かの財閥系の会社に勤務する社員はこの小説をどう読むのだろう。いくらフィクションといっても、あまりにも名称や状況があからさま過ぎる。

とはいえ、池井戸潤ワールドは本当に心地よい。今回は五回泣かせてもらった。

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