山の本 : 「遥かなる未踏峰」 ジェフリー・アーチャー 著 ★★★★★ 新潮文庫
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-11-8 18:21:10 (476 ヒット)

今年の一月中旬ごろだったろうか、ラジオ番組のブックレビューのコーナーで児玉清さんがジェフリー・アーチャーのことを熱く語っていた。曰く、「ジェフリー・アーチャーの人生は波乱万丈に富んでいる」と。

それから、いくらもたたないうちに、児玉清さんは亡くなった。芸能人やタレントの訃報に接して、それほど深い悲しみは抱いたことはなかったが、児玉清さんのことを耳にしたときは、違った。本読みという繋がりを通して同志という意識が自分にはあったのかもしれない。あの肝の入った語り口を思い起こすたびに目がしらが熱くなる。

そのジェフリー・アーチャーの作品をようやく手に取った。

エベレストを目指して、帰らぬ人となったジョージ・マロリー。果たしてマロリーは頂上に達していたのか否か、そこで何が起きていたのか、謎に包まれたまま、時間だけが過ぎ去っていった。遺体が発見されたのは1999年の春、70年以上の空白を越えて、その話題はセンセーショナルな出来事として世界中を駆け巡った。

本書はマロリーのエベレスト登頂の物語りというよりも、マロリーの生涯を描く評伝小説的要素が強い。彼の家族構成から始まり、幼少の頃からの彼を追っていっている。かつ、登頂の謎と彼の遺体が数十年もたってから発見されたこと、その話題性をうまく絡み合わせている。

往年の登山家ヤング、オデール、アーヴィン、フィンチらが登場するたびに胸が躍る。しかし、マロリーがただ一人自分と同等かあるいはそれ以上と認めていたフィンチを除いて、他の登山家達の活躍は控えめに描かれている。
フィンチはかなり個性が強かったとみえる。イギリス人の典型であり理想ともいえるマロリーとは対照的。化学者であったフィンチは酸素を使っての登頂に可能性を見出し、最初の遠征では彼の方がマロリーより上部に達していた。

しかし、次の遠征隊に彼ははずされてしまう。王立地理学会がオーストラリア人のフィンチをエベレスト征服の最初の一人として認めることを潔としなかったのだ。当時イギリスが威信をかけて臨んだ南極到達もノルウェー人のアムンゼンによって成し遂げられていた。
エベレスト初登頂はなんとしてもイギリス人でなくてはならなかった。しかし、その後、歴史上初めてエベレストの頂を踏んだのがニュージーランド人のヒラリーだったことを鑑みれば皮肉な話ではある。

マロリーは果たして登頂に成功したのか、女神は彼に微笑んだのか。

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