本棚 : 「ロシア皇帝の密約」 ジェフリー・アーチャー 著 ★★★ 新潮文庫
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-11-12 17:23:27 (312 ヒット)

この本が出版された1986年の前年、著者のジェフリー・アーチャーはサッチャー首相から保守党の副幹事長に指名されている。これには本当に驚いてしまう。日本の現役代議士でこれだけの小説を書けるものがいるであろうか。

それどころか、本作品のようなスケール感があって、エンターテイメント性豊かな冒険スパイスリラー自体、日本ではお目にかかれない。いくら頑張って、マネしようと試みても、モドキの作品となってしまうのがせきの山。

なんでだろう?残念ながらこの分野では明らかに外国の作家のセンスがはるかに日本の作家の上をいっている。もっとも、小説だけではなく、映画やテレビドラマでも似たような状況ではあるのだけれど。

舞台設定は1966年、小生がまだ小学生の頃。地理上のアメリカとソ連の位置は知っていても世界の覇権地図は知る由もない。ブレジネフ、ウ・タント、グロムイコ、リンデン・ジョンソンらの名前はテレビや新聞で見知っていたが、へんてこりんな名前だなと面白おかしく記憶していた程度。そのお歴々が登場し、当時の世相がよみがえる。

ましてや、KGBとCIAの諜報戦など知らない世界。そこにロシア皇帝が残したイコンを巡って、覇権の構図をがらりと変えるほどの事件が海の向こうで繰り広げられていたとは、びっくり仰天である。

訳者あとがきにもあるように、本書はいわゆる“巻き込まれ型”スリラー。その筋道をはずさない王道をいく作品である。

なお、「イコン」に関しては、我が町の隣にある上市町の「西田美術館」にまとまって収蔵されている。日本では貴重なコレクションとのこと。イコンの実物を鑑賞したあとこの作品を手にとれば、作品のイメージが一層深まること間違いない。

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