本棚 : 「テスタメント」 ジョン・グリシャム 著 ★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-11-17 17:49:26 (296 ヒット)

発想はユニークだが、全体としてのバランスに違和感あり。

ジョン・グリシャム十作目、この作品も発売早々売れ行き上々。彼ほどの作家になると、作品が出るたびに中身はどうであれ、本読みは手に取ってみたくなる。はたして今回はどんな風に楽しませてくれるのか。

はっきり言って、今回はコメディだ。百十億ドルもの遺産を残して死んでいった巨大富豪トロイ・フェラン。その遺言状の衝撃的な内容を巡って話は進んでいく。

莫大な遺産に群がる親族とその弁護士たちのおバカぶりがこれでもか、これでもかと描かれる。その様はドタバタ喜劇といってもよいくらい。その対極としてあるのが遺産相続人として唯一人指名された娘の女性宣教師レイチェル。

全く想定外の彼女。居場所も不確定。わかっているのは、アマゾンの奥地で、少数民族相手に宣教師をしているらしいということのみ。

そして彼女を探す役を任されたのが弁護士のネスト・オライリー。離婚歴が二回。アル中の更生施設で治療中のところをリクルートされた。

本著はかなりの長編であるが、オライリーがレイチェルを探してブラジル奥地の湿原のパンタナルを行く場面にかなりのページが割かれている。割愛しようと思えばその十分の一くらいまでには縮められるのに、グリシャムはあえてそうしていない。大パンタナルの自然がまるまる映し出されており、それだけでも一冊の小説に仕上がるくらいの迫力を持って描かれている。

それから比べると、遺言状を巡る親族の弁護士とのネゴはおつまみにみえてしまう。親族のおバカぶりを描いたコメディ部分と大パンタナルのシリアス劇のアンマッチがどうにもピンとこない。

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