本棚 : 「驚異の発明家(エンヂニア)の形見函」アレン・カーズワイル 著 ★★★ 東京創元社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-12-19 18:22:27 (315 ヒット)

この小説もマジック・リアリズムの匂いがする。
ファンタジーとまではいかないが、それに似た雰囲気十分。

オークションで競り落とした年代物の箱。それがなんなのか知らいないまま、またどんな値打ち物なのかわからないで競り落とした。ただ、直感と感性がそれに秘められている何かを感じ取っていた。

「形見函」とは初めて聞く言い回しだが、18世紀中ごろに流行っていたものだという。持ち主の人生の要所要所でその鍵となった「物」を収録してある。その「形見函」によって、その持ち主の歩んできた人生を表現する、そんな箱である。

自分の部屋にもそれと似たようなものがないでもない。部屋中に散らかるガラクタの類。小学生のときに使った彫刻刀。中学に入ったとき初めて買った国語辞典。剣道の竹刀。漫画本を含め雑多な本の数々。作りかけの戦車のプラモデル。ほこりがかぶったマック。などなど、捨てられないものが山のように積んである。それはそれで自分の歴史の一ページを彩ったものに違いないのだが、ほとんどというか、ほぼ全てがお金を出して買ったもの。物に囲まれて生活しているといっても過言ではない。

しかし、「形見函」に収められているのは10個に満たないもの。それで、その持ち主の人生を語り、表現する、というのだから、昔の人は酔狂なことを考えたものだ。

「形見函」に仕切られて、収められている一つ一つが、とある発明家の波乱に富んだ人生の断片と連動している。

文中、気になった文章が一つ。
「器械は素材の持つ力と堅固さにかかるものではなく、技と創意工夫にかかるものである」
なかなか的を得た名句ではある。裏返すと「技と創意工夫」には限界がないということ。あらゆる面で行き詰まっている現在の日本を救う手立てはこれに尽きるのではないだろうか。

また、「器械体操」の語源はここから来たのではないかとも思ってみたりした。「器械」自体、ギリシャ語起源で、創意とか技芸を意味する。器具を使用するから「器械体操」なのでははく、「創意と技芸」を極める体操なのだ、と納得した。

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