本棚 : 「デッド・オア・アライブ」 トム・クランシー 著 ★★★ 新潮文庫
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-6-26 19:07:44 (317 ヒット)

“デッド・オア・アライブ”とは「生か死か」の意味だと思っていたら「生死を問わず」の意だった。作品の内容からしても間違いなく後者であろう。

前作「国際テロ」はジャック・ライアンシリーズの復活を示唆してくれたが、いささか、消化不良の感がぬぐえなかった。本作品はその第二部といったところ。はたして内容は・・・。

スパイ、軍事スリラーの分野では、東西冷戦終了後、敵味方関係の構図が変わり、テロリストがアメリカの悪役に躍り出てきた。9.11後、その傾向は顕著となる。

トム・クランシーはその最たるもの。一連の作者の作品を読んでいると、これほどまでにイスラム教徒(イスラム原理主義過激派)を悪者にしてもよいものかと思ってしまう。

東西冷戦時代のスパイ合戦は、作りもののエンターテイメントとして、それはそれで読みごたえがあった。しかし、今の時代、テロはフィクションでなくなり、その脅威は現実味をおびて来ている。そうなると、それを題材とした小説はそれ以上のフィクション性を求められ、読者はより完成度の高い作品でないと満足しないだろう。

トム・クランシー大先生と言えども、このハードルはかなり高いはず。

作者はその高いハードル越えをライアンに託し、読書もそれに期待した。それはテロに立ち向かうアメリカとジャック・ライアンの“正義”の物語だ。なんとか新鮮味を出そうとの試みがないではない。チャンバラ場面はこれまでの作品になく多く。しかし、対テロの物語は深みに欠け、というか、これまでの作品の域を超えておらず、楽しみしていたライアンと妻のキャシー(彼女の物語もまたこのシリーズを支えてきた)のやり取りもなく、作品全体としての生彩を欠いている。

あれほど手に汗握り、ワクワクして読んだジャック・ライアンシリーズも経年劣化は否めないようだ。

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