本棚 : 「ベスト&ブライテスト 1・2・3」 デビッド・ハルバースタム 著 ★★★★★ サイマル出版会
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-8-8 6:20:54 (299 ヒット)

この本を初めて手に取ったのは約三十年前。あの頃はまだ自分に希望と未来があった、もちろん髪の毛も・・・。

私は「右手にジャーナル、左手にマガジン」の世代から少し遅れて大人になって、社会人となった。中身は別として、そのフレーズのカッコよさに憧れて、朝日ジャーナルをそばに置いていた。おそらくこの作品はその朝日ジャーナルに紹介されていて、買い求めたものと記憶する。

今回、三十年の時を経ての再読となった。

『ベスト&ブライテスト』とはケネディが集めジョンソンが受け継いだ「最良にして最も聡明な」人材だと絶賛された人々を指す。そんなエリート達をもってしても、アメリカはベトナム戦争という泥沼にはまり込んでいった。そのエリート一人一人がどんな人物で、時代の一ページのどの部分を担っていたかを描くことによって、当時のアメリカという国そのものをあぶり出している。

国民の期待を背負った若きエースとして登場したケネディと今のオバマが重なりあう。

重要な国の意思決定がなされる過程において、彼らがどんな役割を演じていたかが克明に描かれている。記述は概ね時間軸に沿っているが、一人の役者が登場するとその人物像を深堀して、それを起点として彼にまつわる別の役者の物語や別の事象の検証へと移っていく。なので、話があっちに飛んだりこっちに飛んだりする。三巻すべてにおいてそんな感じ。巨大なキャンバスに時間軸と事象と人間ドラマという“付箋”を思いつくまま貼り付けていって、それらが有機的に結びあって出来ている。

そこに描かれているのは、権力深奥部の人間ドラマと繁栄の中のアメリカの苦悩と挫折を同調させた、アメリカの現代史。アメリカが愚行に及んだ“経緯”と“わけ”がこと細かく記されているが、それでもなぜ、そうせざるを得なかったのか、この本を読んでる最中、そして読み終わってからも、理解に苦しむ。

百歩譲って、ベトナムに介入せざるを得なくなったとしても、当時も今も最強の軍隊を持つアメリカがなぜベトコンと北ベトナムに“勝て”なかったのかイメージ出来ない。対イラクでの砂漠の嵐作戦を目の当たりにしているとなおさらそう感じられる。正義がベトコン側にあったということは間違いがないのだけれど・・・。

ハルバースタムが必死になって伝えたい、がむしゃらさの詰まった作品だ。現代アメリカ史のサブテキストとしても十分通用すると思う。

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