本棚 : 「フルハウス」(生命の全容・4割打者の絶滅と進化の逆説)スティーヴン・ジェイ・グールド 著 ★★★ 早川書房
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-9-7 11:39:14 (297 ヒット)

なぜ4割打者の絶滅と進化論が結びつくのか?

メジャーリーグでは1941年を最後に4割打者が出ていない。守備力や投手力の向上に対して、打撃が追いつけていないからなのか。打率は相対的なものであり、100メートル走などのような絶対的な記録とは異なる。一方、守備力はある程度、絶対的数値で測ることが可能だ。エラー率などは統計的にみると確実に少なくなってきている(これにはグラブの向上なども貢献している)。

一方、平均打率は、メジャーリーグの歴史において、どの時代でもおおむね2割6分台をキープしており、大きな変動はない。ボールの芯を硬く巻くと、より遠く飛ぶようになる。それはそれで観客の喜ぶ結果になる場合もあるが、試合そのものを大味にしてつまらなくしてしまう。すると、ピッチャープレートとホームベース間の距離を伸ばすことによって、打率はある程度減少する方向に導かれる。

昔はカーブとストレートぐらいしかなかったが、これは打者に有利に働いた。しかし、グラブの向上が守備力を高める結果をもたらすことにもつながった。昔のグラブは球を補足する“カゴ”などついていなかったのだ。そのうち、球種が増えてくると、守備側が優位になってくる。しかし、打者も打撃技術の向上によってしだいに適応するようになる。

ようするに、こうゆうことなのだ。
初期の頃のメジャーリーグではまだ守備、打撃ともに技術力はまだ発展段階にあった。打率や守備力は個人の先天的能力に左右された。平均打率こそ2割6分であっても、それには左右、下から上まで、大きなばらつき(多様性)がみられた。4割打者も出た代わりに、1割前後の打者も多かったわけだ。それが、時代がたつにつれて、打撃、守備双方に技術的向上が進み、全体として大きなばらつきが(多様性が)少なくなって来た。(打率で言うと標準偏差が小さくなってきた)。左右の振れが少なくなり、打率の変異が時代とともに凝縮されてきた。当然、その右端に位置した4割という振れも左に動き、4割打者が出にくくなってきたというわけだ。しかし、これは4割打者がこれから先、出ないということを示すことにはならない

なんとなく分かったような。

これまで一般的であった末広がりの生命樹とは相反し、多様性の減少と悲運多数死が進化の姿だというグールドの説には共鳴できる。4割打者の絶滅の理由は、技術力向上による多様性の減少(標準偏差の縮小)から導かれる、ということは分かった。しかし、右壁がなぜ4割でなければならないのか、それにつていはいま一つ解答がなかったような気がする。

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