本棚 : 「代替医療のトリック」 サイモン・シン&エツァート・エルンスト 著 ★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-10-28 21:19:20 (320 ヒット)

「代替医療」とは、「主流派の医師の大半が受け入れていない治療法」と本書では定義されている。さらに本文中の言葉で言い表せば「科学的根拠にもとづく医療」以外のすべての医療行為ということになる。本書では科学的根拠にもとづかない医療を厳しく断罪している。そして、なぜそう主張するのか、科学的根拠(信頼性の高いデータ)にもとづいて解説している。

訳者あとがきでは、「二人の著者の狙いは、これだけ普及している代替医療を、メカニズムが科学的に理解できないからといって頭から否定することにあるのではない」と言っているが、小生の感ずるところ、彼らの主張は限りなくそれに近い。「科学的根拠にもとづかないものを認めるわけにはいかない」と。

ここでは主要な「鍼」「ホメオパシー」「カイロプラクティック」「ハーブ療法」に焦点をあて、科学的根拠の無さを証明している(一部限定された効果については認めている部分もある)。しかし、なぜそれにもかかわらず、現代において多くに人々に認知され医療として扱われているのだろうか。その裏には何らかの要因があるはずだ。そこで、効果が証明されていない、または反証された医療を広めた責任者の登場となる。その責任者とは、「セレブリティ」「医療研究者」「大学」「代替医療の導師たち」「メディア」「医師」「政府と規制担当局」「世界保健機関(WHO)」。中でもイギリスのチャールズ皇太子の“貢献”についての記述は手厳しい。

科学者らしい正論を歯に衣着せない文体で、かつ、素人にもわかりやすく解説している。だが、「科学で説明できない、自分が認めないことは真実であるはずがない」という主張になんとなく引っかかるものがある。たとえ科学によって代替医療が全否定されたとしても、代替医療が根絶することはないと思う。人間の心には白と黒、完全に割り切れない部分が相当ある。それが人間をして人間たらしめる所以ではなかろうか。そう考えると、本書ははかない抵抗のようにも思えてくる。

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