本棚 : 「フェルマーの最終定理」 サイモン・シン 著 ★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-11-19 19:00:07 (346 ヒット)

「暗号解読」「代替医療のトリック」に続いて、サイモン・シンとしては三冊目。

ネット上の書評は非常に高い、ほとんどが五つ星。しかし、自分としては最初に読んだ「暗号解読」のインパクトが大きかっただけに、それと比較してしまい、あとに読んだ二作品はそれほどのインパクトはない。もし、最初に「代替医療のトリック」あるいは今回読んだ「フェルマーの最終定理」を手にとっていたならば、双方とも間違いなく星五つとなっていただろう。それでも「暗号解読」のほうがおもしろさに勝っていると思う。

今となっては解明されたので「フェルマーの最終定理」と定義されているが、1995年にそれが証明されるまでは「最終予想」と呼ばれるべきであった。それでも、それがなんであるかは知らなくても「最終定理」という言葉はこれまで何度となく耳にしてきた。

本書でサイモン・シンはこの「最終予想」がどのようにして解かれるに至ったか、解明の歴史を記している。そして、そこに登場する人物やその時代背景をまるで見てきたような語り口で描いている。数学的な命題にストーリー性を持たせ、かつ臨場感も味わせてくれる。そこが、ただ単に「フェルマーの最終定理」について素人向けに説いている入門書とは趣が異なる。

フェルマーが予想してから、実に350年の後にしてようやく解明されたこの定理。多くの偉大な数学者が挑んできた。それぞれが証明に一歩ずつ近づいていくのだが、証明までには至らなかった。そこにみられるのは理論の積み重ねであった。すなわち、あとに続いたものが、前者の理論をうまく取り込んで次のステップに進んでいく。それ自体非常に評価されるべき偉大な一歩といえる理論ばかり。そんな試行錯誤があって、次第に解明へと近づいていったのである。そして、最後に頂上に立ったのがアンドリュー・ワイルズだった。

ただ一人のあるいはチームによる一時代的な話かと思っていのだが、これほど劇的な展開が一つの定理の裏にあったとは思いもよらなかった。数論の一定理を壮大なドラマに仕立てしまうサイモン・シンの作品は一般向け科学書としては秀逸である。

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