本棚 : 「沈黙の春」 レイチェル・カーソン 著 ★★★ 新潮文庫
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-11-27 18:33:56 (412 ヒット)

原題もそのまんま「Silent Spring」

この本は1962年にアメリカで出版され、その直後1964年に邦訳されている。以来、平成20年の時点で71刷。実に長きにわたって支持され読み継がれている。

今でこそ農薬禍に対する考えは多くの人々の間で共有されており、ときには過敏とさえ思える面も見受けられる。しかし、この本が書かれた頃はまだ農薬の有効性ばかりが先にたち、その有害性についてはほとんど論じられていなかった。

この作品が出された背景の一つに、1930〜50年代の農薬乱用ということがある。当時、ただ単に無駄あるいは不必要と思われる草花(雑草)の除去、作物や人間にとっていらない虫や病害虫の駆除のため、むやみやたらと化学薬品が使用された。その「スプレー」のやり方が尋常ではなかったのだ。膨大な量と広範囲にわたり、大義名分の名のもとに、なりふり構わず薬品がばら撒かれていた。それが自然界にどんな負荷を与えるか、またそれによって人間がどんなしっぺ返しをくうか、おかまいなし。とりあえず目先の利益が得られれば、それで良しとした。

著者はその実態を丹念に調べ上げ、行われた愚行を一つ一つ書き記している。本書はその実証データの羅列といっても過言ではない。これでもか、これでもかと、ややくどすぎるくらい書き連ねている。

彼女は化学薬品の乱用を危惧し、未来への警鐘を鳴らした。しかし、本書が出されてから50年近くたった今、現状はどうであろうか。日本ではリンゴやブドウなど、ほとんどの果樹栽培には過剰とも思えるほどの農薬散布が欠かせない。一面真っ白になるくらいの果樹園、それも一回や二回ではない。そこまでしないと消費者に好まれる果実が収穫できない現実。フィリピンなどのプランテーションで栽培されるバナナもしかり、作業者の健康を脅かすくらいの農薬が使用されている。というか、現地で働く人たちの犠牲によって我々は安価で旨いバナナの提供を受けている。事態はひとつも変わってないように思われる。

「化学薬品はなんでも悪である」との読み方はしないが、自然界に限らず、すべてにおいて強いインパクトを与えるものは必ずや負のインパクトをもたらす可能性がある。そう考えておいて間違いはなさそうだ。

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