本棚 : 「ソロモンの偽証」宮部みゆき 著 ★★★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2013-2-17 20:47:00 (258 ヒット)

「模倣犯」のようなおぞましいミステリーかと思って臨んだら、そうではなかった。
14歳の中学生の校舎からの転落死を主題としているのに、その悲壮さや重さといったものは全く感じさせない。たとえが適切でないかもしれないが、きりりとしたすがすがしささえ感じたのは私だけだろうか。

仕事の旅先から戻ってみると、予約してあった図書館の本が届いていた。かみさんが代わりにとりにいってくれていたのだった。見てびっくり、分厚い三巻のボリュームに圧倒された。だが、返却期限までゆっくりと読んでいられない。山にも行きたいし、会合やら、確定申告やら、仕入れやら、他にももろもろやらなきゃいけないことが溜まっている。「この本は人気があって、あとに予約が詰まっているから、期限までに返してほしいんですけど」と、期間延長はやんわりと断れている。従って、旅先までは持っていかれない。野暮用は手抜きでやっつけて、再び旅先に出向くまでの短い間、「ソロモンの偽証」を最優先事項とすることにした。

いじめか、あるいは他にも深いテーマが潜んでいて、連続殺人へと進展いくのかと思わせる冒頭。読み進むうちに、死亡した少年と同じ学校に通う中学生らには真実を突き止めようとする機運が持ち上がり、突拍子もない行動に出る。あれ、少年探偵団?と思っていると、さにあらず、すかさず少年法廷へと物語は進んでいった。

リーガルサスペンスでは、スコット・トゥローやジェフリー・アーチャーがお気に入りだが、日本人にはこんな小説は書けまい、と常々思っていた。しかし、こんな手があったのか、と一本とられた気分。

この作品の初出は「小説新潮」。おおよそ、中学生や高校生を読者の対象とはしていない。主題は学校問題。文章は平易で、読みやすい。「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」のノリで描かれている。だから、中学生や高校生が読んでも十分楽しめる、それどころか、彼らにもぜひ読んでもらいたい内容。それなのに、なぜ、作者はこの作品を「小説新潮」に掲載したのか。しかも、並みのボリュームではない。自分の子育てを通してでも感じたことだが、きょうびの中高生は、大人が思っている以上に、よく物事を考えていると思うことがある。そして、その発言にハッとさせられる場面も多い。この作品ではそれが如実だ。同じ校舎に通う同級生または同学年の生徒らが、一中学生の死の真相を知るために立ちあがる。その真実を知ることが彼ら彼女らの明日につながり、それがなくして彼らの未来はあり得ない。少年法廷の形をとって、彼らの多感な心情が綴られていく。あまりにももろく、素の中学生の気持ち。それを「小説新潮」の読者であろう大人に「読んで」もらうことが、作者の意図したことではなかったか。学校問題解決の一つの糸口として。

そして、改めてそれがこうやって単行本となって世に出て、再び大人が手に取る。当然、中高生や大学生、教育関係者も読むようになるだろう。そうやって、混じり合わない世代間の意思の共有がはかられていく可能性を秘めている、そんな作品だと感じた。

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