本棚 : 「イラクサ」 アリス・マンロー 著 ★★★ 新潮社クレストブックス
投稿者: hangontan 投稿日時: 2013-9-6 4:43:15 (421 ヒット)

アリス・マンローの作品は初めて。
最初に感じたことは、短編集の中のそれぞれの作品の書き出しの唐突さ。

「何年もまえ、あちこちの支線から列車が姿を消す以前のこと、そばかすの散った広い額に赤みがかった縮れ毛の女が駅にやってきて、家具の発送についてたずねた」

「アルフリーダ、父は彼女のことをフレディーと呼んでいた。二人はいとこ同士で、隣り合った農場で育ち、それからしばらく同じ家で暮らした」

「ニナは夕方、高校のテニスコートでテニスをした。ルイスが高校教師の仕事をやめてから、ニナはこのコートをしばらくボイコットしていたのだが、あれからもう一年ばかりたち、友だちのマーガレットーーーこれもまた教師だが、お決まりで型どおりの退職だった、ルイスの場合とは違ってーーーに説得されてまた使うようになったのだ」

「ライオネルは自分の母親がどんなふうに死んだかを語った。母親はけ化粧品を求め、ライオネルが鏡を持った。『一時間はかかるわよ』と母親は言った。」

「ヴァンクーヴァーのホテルの部屋で、若いメリエルは短い白の夏用手袋をはめている」

「あたしのことそう呼ぶのは、やめたほうがいいかも」とクィーニーは言った。

「フィオーナは親元で暮らしていた。彼女とグラントの大学のある町で。その家は出窓のある多きな家で、グラントには豪華であるが散らかって見えた」

アリス・マンローは2005年のタイム誌で「世界でもっと影響力ある100人」に選ばれている、とか。「短編小説の女王」とも呼ばれるだけあって、この短編集はなかなかおもしろかった。
著者70歳にして出した短編集だが、その中の一つ一つの作品が人生のテーマを暗示させてくれて、なおかつすべての作品の完成度はかなり高い。そして、最終に収められている物語は老いというテーマを、哀しさとせつなさだけで覆うのではなく、ほんのりとした甘さが漂う作品となっている。

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