本棚 : 「吸血鬼と精神分析」 笠井潔 著 ★★★★ 光文社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2013-10-7 6:06:52 (494 ヒット)

当初、雑誌に掲載されていたときの題名が「吸血鬼の精神分析」。単行本として出版される際に「吸血鬼と精神分析」と改題された。間に入る一文字によって、作品のイメージが大きく異なる。読んでいくうちに、その一字違いが大きな意味を持つことに気づく。連続する殺人事件の犯人は誰なのか、その人物が登場したとたんにピンと来るものを感じた。本の題名がオリジナルのものだったら、それが単なるひらめきではなく、すぐさま確信に至っただろう。

連続殺人という事件=事象を上下左右、裏表という様々な視点からみた推理がなされていく。その探偵役を担うのが「カケル」。連続殺人には見立てがなされており(本文中では「徴」と表現されている)。その見立てをカケルが解いていく。その分析、推理方法は京極堂を彷彿させる。だが京極堂ほどバッサリ切れ味鋭くはない。というか切り口に若干の違いがある。さらに、同じ事象に対して何度も何度も違う考察がなされていくので、わけがわからなくなる。それなら、なんでもありになってしまうだろう。そう思ってしまう。本格推理小説の大御所である著者なのだが、彼の作品にはそういう、ややくどい面があるのも否めない。

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