本棚 : 「サブミッション」 エイミー・ウォルドマン 著 ★★★ 岩波書店
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-4-17 19:14:22 (418 ヒット)

高校の時、岩波新書を手に取ることがカッコよく思え、同時に、それが知的好奇心を満たしていってくれた、そんなほろ苦い思い出が、この作品を読み終えてから、この本が岩波書店から出されていることに気づき、脳裏をよぎるのであった。

仮に、本の中で「もし、〇〇だったとしたら」という仮定が投げかけられたとき、読者は「自分だったらこう思う」、とその仮定に対する自分なりの答えを準備して読み進むであろう。本書では、あの9.11のグラウンド・ゼロに設置する記念碑を想定し、公募のすえ選ばれたデザインが、イスラム教徒(実際はれっきとしたアメリカ国籍を持つアメリカ人なのだが)の作品だった、ということから始まる。

はたして、そのデザインは本当に採用されるのだろうか。本作品を読み進んでいく中で、その仮定が設定されたときに抱いていた自分なりの解答が試され、吟味され、こなされていく。それはまさにテレビ番組の「白熱教室」のようで、特に番組中で強いインパクトを受けた「正義とは何か」と「人生における選択の重要性」、この二つの命題が、この作品で投げかけられ、問われているように思わされた。

公平さと自由が尊重されるべきというアメリカ建国以来の伝統と正論だけでは前に進まないという現実、そこには明らかに矛盾が存在するのだが、それに対する答えはあるのか、あるとすればどういう形がベストなのか。本書では、物語の中で多様な登場人物が「白熱教室」に登場し、「意見」を交わし、答えを導き出そうとする。そのたびに、私は自分の考えと照合し、その思いは揺れ動く。

エンターテイメント的には地味な内容だが、イスラム教徒とアメリカ人、双方に認められる「正義」と「選択」について、自分の考えを練り直させてくれた作品であった。

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