本棚 : 「太陽を曳く馬」高村薫 著 ★★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-7-16 21:00:36 (524 ヒット)

なんでこんな題名になったのか、分からない。

後から出された「冷血」を先に読んでしまっていたが、「冷血」に通じるテーマが「太陽を曳く馬」に組み込まれていた。「冷血」を読んだとき微妙な違和感というか唐突さを覚えたが、これで納得できた。もし「太陽を曳く馬」を先に読んでいたならば、すんなり「令血」に入っていけただろう。

青森のドンの外腹として生まれ東大を出てから漁業に就き、そして仏家になるという「晴子情歌」「新リア王」で描かれた福澤彰之の人生はかなり数奇な道を辿っているが、それは非凡であたったとしても異質なものではなかった。だがその子秋道には明らかに異質なものが感じられる。彰之が初めて息子秋道と逢ったとき、私はそこに異質なものを感じとったが、当然父である彰之もまた同様であったであろう。

その異質さの行く先に待っていた事象は起こってしまってからは最初から予見できたかのように思えてしまう。決してその予感があったわけではないのだが。その起こってしまった事象はその異質さ故のことだったとしても、その事象自体を消すことはできない。息子の異質さを感じながらも、その異質さを外側からしか観ることのできない父。それが起こってしまってからも、やはり外側から観続ける父。

そこに、高村作品常連の合田雄一郎の物語が絡んで来て、なおさら複雑な構造に。

青森三部作の三作目にして最難解な作品となった。

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