本棚 : 「神の拳」上・下 フレデリック ・フォーサイス著 ★★★★★ 角川書店
投稿者: hangontan 投稿日時: 2011-1-6 20:56:32 (524 ヒット)

「アフガンの男」を読んで、消化不良気味だったので、これならどうか、と、手に取ってみた。
1990年8月、イラクがクウエートに侵攻したことに端を発した湾岸戦争がモチーフとなっている。テレビに映し出されたハイテク兵器によるアメリカ軍による空爆は、まるで映画の1シーンのようだった。ピンポイントで目標物が破壊される様に目を見張った。今回、フォーサイス先生はその「砂漠の嵐作戦」をドキュメンタリータッチで追っていき、かつ、そこに架空の物語を挿入し、それらを絡み合わせた物語を作り上げた。本作品中の戦闘シーンが、まぶたに残る空爆の映像と重なり、臨場感が否応なしに高まる。事実は事実として利用し、それを毀損することなく小説に仕立て上げ、架空の主人公がまるで本当にそこに存在したかのように史実の中に溶け込んでいる。同じハイテク軍事ミステリーありながら、まるっきり虚構の世界で楽しませてくれるトム・クランシーとは毛色が異なる。
とかく「アフガンの男」と比較される本書だが、やはりこちらの方に軍配が上がる。というか、「アフガンの男」は本書の二番煎じと言われても仕方のない作品といえる。今回は単身イラクに潜入した兵士の描写と活躍が図抜けている。「アフガンの男」では、主人公の登場の仕方、その幼馴染が敵側にいる、など、話運びに本作品と類似点が見受けられ、「フォーサイスはどうしちまったんだ」と評されるのも無理のない話。それほど、この作品は完成度が高い作品と言える。

フォーサイスの本
「アフガンの男」
「マンハッタンの怪人」
「アヴェンジャー」
「戦士たちの挽歌」

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