投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:18:40 (505 ヒット)

浅永マキ 著 ★★ 学習研究社

伝奇小説。
犬が神がかりの象徴と描かれているものとしては、西村寿行の作品がまず思いあたる。やや官能的な内容が伴うのもこの手の小説の楽しみでもある。だが、本作品は並みの官能小説しのぐ内容で、いささか戸惑いを抱きながら読んだ。作者はまだうら若き女性らしいのだが、どこにそんな想像力が潜んでいるのであろうか。まさに血みどろの結末は圧巻であった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:17:52 (426 ヒット)

キム・スンホ 著 ★ 小学館

上下2冊それもかなり分厚い本なのだが、中身は漫画、マンガチック。
プレートの移動によって日本列島が引きずり込まれ、日本が沈没してしまうことがわかった。ここまでは小松左京の『日本沈没』を彷彿させる。しかし、『日本沈没』はそのときの悲惨な様、混乱を描いたのに対して、ここでは別の切り口となっている。日本が消滅すると判明した時点で日本がとった行動は、オーストラリアに新天地を求め、しかも武力で、戦争を仕掛けて占領しようというもの。これだけでも笑ってしまう。加えて、軍事技術的な描写は私が小学生のとき読んでいたマンガ雑誌の域を出ていない。というか、そのもの。会話はマンガの吹き出しのようで、ただそこに絵がないだけという感じ。
原著は『GAIA』という題名で、主題は違うところにあるのだが、なんというか、読むマンガという印象。韓国語の邦訳の仕方にも原因があったのかもしれない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:17:17 (412 ヒット)

ダン・ブラウン 著  ★★★ 角川書店

ダン・ブラウンはベストセラーとなった『ダ・ヴィンチ・コード』の作者とのことだが、自分はそれとは知らずに手にとった。
アメリカ大統領選候補者をめぐって表裏の駆け引き。それに絡め合わせたNASAが舞台の謎解きというのが意外というか新鮮に感じた。NASAのロケットやスペースシャトルには広告が入ってなかたんだな。筆の勢いは全文を通してスピード感に溢れ、読んでいて心地よい。誰が善で、どちらがうそを言っているのか、くるくる変わるシーン毎に展開が読めなくなる。ハイテク要素もてんこ盛りで、007的なのりを感じた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:16:38 (344 ヒット)

村上龍 著 ★★ 集英社

歌の本ではない。やたらと口語調の文章。ブックカバーが内容を象徴している。昭和はすでにレトロとなってしまったが、その時々の流行り歌が作品中で使われ、その頃の自分を思い出してしまう。登場人物らは過去にはなんの繋がりもないのだが、何気ない会話のなかで昭和の一場面が語られると、それが共通認識となっていたりする。昭和の時代はモノカルチャーの押し付けの真っ只中だったとつくづく思う。平成になってもその歩調は止まらないが、それを感じるのは時間を経てからのことであろう。昭和を懐かしむのは年をとったからに違いない。
淡々と殺しが描かれているが、なんとなく哀しい。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:15:43 (421 ヒット)

アレックス・ロビラ 、フェルナンド・トリアス・デ・ペス 著 ★★ ポプラ社

一昔前世界的にベストセラーとなった、おとなの童話。
幸福を呼び込むというクローバーを求めて旅立つ二人のナイト。その物語には幸運を掴み取るための大事な何かが語られている。その物語を映し出したように、公園でたたずむ二人の老人。一人は成功者、そして一人は未だ幸運に出会ってない者。

一時間足らずで気軽に読める。だらだらと流れていく日常生活に、ちょとした憩いをもたらしてくれる、そんな本だ。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:15:14 (378 ヒット)

村上龍 著 ★★★ 幻冬舎 
第59回毎日出版文化賞(毎日新聞社主催) 野間文芸賞受賞

けっこういけるかな。だんだん村上龍にはまってきた。
北朝鮮の反乱軍が福岡を占領し、九州が封鎖される。危機に瀕したときのシュミレーション、庶民の行動、生活、自衛隊の動き、政府の対応、が細部にわたって描かれている。しかし、それだけでは終わらないのが村上龍流。『壊し』と『おかし』が加わって彼独自の世界を形成している。
圧巻は、やはり、終盤の攻防戦なのだが、線香花火のような結末には、『あれっ』という感じ。これも彼なりの美学なのかな。

在日朝鮮人の方からは、批判の声も上がっているらしい。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:14:40 (370 ヒット)

麻生幾 著 ★★ 産経新聞社

この人の作品はかなり期待して手にとる人が多いと思う。分厚い上・下に分かれた長編で、さぞやと楽しみにしていたのは私だけではあるまい。
この手のテロを舞台とした、諜報員の活躍はどうしてもトム・クランシーの作品とだぶってしまい、だぶられたら勝てるわけがない。手法が似ているのだが、人物の描き方にはトム・クランシーに一日の長がある。
古参のテロ『連合赤軍』と現代的なウイルステロのモチーフを取り上げたのまでは良かったのだが、ヒロイン、ヒーローの人物描写はもう少しという感があるものの、他の登場人物にいたっては及第点には届かず、事象の必然性もやや納得しがたい箇所が多々見受けられた。
もう少し完成度の高い内容と期待して読んだ分だけ、満足度は今一だった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:13:59 (398 ヒット)

石田衣良 著 ★★★ 文藝春秋

『波のうえ』とは何のことかと手にとってみれば、株の相場のことだった。なるほど。だが、作品としては波は無く、最初から最後まで小気味のいいテンポで書かれている。取り立てて仕掛けも無いが、予定調和もない。
大学を出たものの職にありつけず、パチンコで日々の生活をしのいでいた主人公に、ある日突然ジジイから声が掛かる。自分のもとで仕事をやってみないかと。そのジジイが株の達人だった。仕事とは、とある銀行の株価を毎日ノートに書き付けることと、新聞をすみからすみまで読むこと。株価の羅列から、青年は株の波を感じ始める。株価と世の中の動き、経済のダイナミズムをジジイは青年に教え込んでいく。青年はそれに応え、最初の取引で勝利を掴む。
登場人物の設定と全体に漂う哀愁感、なんとなく浅田次郎を彷彿させる。
株というものは、購入した値段よりも高く売って利益を得るものだと思っていたが、下がっても儲かる仕組みがあることを初めて知った。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:13:21 (329 ヒット)

村上龍 著 ★★★ 幻冬舎

ネットで見ると、この本には非難の声が多数上がっている。『ろくな職業経験もない著者が、職種に偏見性を持って書いた』というのがその大方の意見。だが、自分的にはそうは思わない。
実際そうなのかもしれないが、それを非難するにはあたらない。作家の職業についての取材ノートをデータベース化したもんかなというのが第一印象。
夕食時など、ちょっと、さらっと、開いても気軽に読める。ふと思いついた、この仕事、あの仕事はどんなんかなと感じたとき、参考にすることも出来る。
一家に一冊、親も子も楽しめる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:12:41 (355 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★ 宮尾登美子全集 第五巻  朝日新聞社

昭和37年、処女作にして婦人公論女流新人賞を受賞。この年直木賞の候補作にも昇っていたが、もれた。昭和51年では『陽暉楼』で再び候補に上がるが、これも、残念がながら選にもれてしまう。ようやく直木賞をとったのは昭和53年の『一弦の琴』である。実にまる17年もかかっている。しかし昭和48年には『櫂』で太宰治賞を受賞しており、ことのきすでに宮尾登美子の『文』は確立されていた。
舞台は大阪、たぐいまれな才能で珠玉の真珠の連を紡ぎ出す女性が主人公。彼女の繊細な感覚から生み出された連は世界中の注目の的となる。真珠の声を聞き、真珠の気持ちになって、表面の輝きだけでなく、内面からにじみ出る微妙な綾までも見通してしまう主人公。
『櫂』からみればかなり荒削りだが、宮尾文学の兆しは見てとれる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:12:10 (544 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★★★★ 宮尾登美子全集 第五巻  朝日新聞社

最初は旧仮名遣いに戸惑ったが、しだいに慣れてくる。
昭和10年、四国山脈を縦断する土讃本線(高知〜高松)が全線繋がった。その祝賀式に花を添える『 陽暉楼』お抱えの芸妓の一人である房子は、身重でありながらもひたすら舞の稽古に打ち込む。しかし、全線開通のその日から、房子の運命が急転する。
『 陽暉楼』は太宰治賞を受賞した『櫂』にも登場する高知きっての大料亭である。『櫂』では、『 陽暉楼』に芸妓を斡旋する店に嫁いだ貴和の半世紀が描かれていた。ここでは『 陽暉楼』の子店の浜むらが舞台で、房子はその看板芸妓である。いつもながら、主人公と係わりのある人、風景、町の風情、四季の移ろい、が細やかに自然体で描かれている。読んでいて非常に落ち着く文章だ。順風満帆に思えた主人公の運命があるときを機転として次第に傾いていく。どうにもならない宿命に身を任せつつ、懸命に歩もうとする房子。これは『櫂』でもそうであったし、『一弦の琴』でも似たような印象がある。
落ち着きたいときは、宮尾登美子かな。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:11:29 (365 ヒット)

小池真理子 著 ★★ 新潮社 
全くの偶然から恋人を銃殺してしまった妹。その拳銃を山に捨てに行った兄の祐介。そこのペンションで祐介に狂気が待ち構えていた。ストーリー、展開、結末とも陳腐。『ナルキッソスの鏡』に出てくる狂気の母親とここに出てくるペンションの主人がだぶってしょうがない。そう感じるのは私だけだろうか。小池ワールドは類似品が多い。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:10:58 (381 ヒット)

小池真理子 著 ★★★ 新潮社
天才画家、辻堂環の訃報から始まる短編の集合体。天才の内面は黒く渦巻く嵐のようなものなのだろうか、はたまた木漏れ日が差す穏やかな縁側のようなものなのだろうか。どこにでもいそうな6人の主婦が環の死を知った瞬間、彼との蜜月の記憶がよみがえる。
それは一時ではあるが環との狂おしい、まぎれもない恋の蜜月だった。そんな過去があったのかなかったのか、それを全く感じさせない彼女らの平凡な今の生活とのギャップに引っかかるものがある。そんなんでいいの?


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:10:27 (483 ヒット)

小池真理子 著 ★★ 集英社

ホラー・サスペンス。
逢魔ヶ森別荘地に若い男女が消えていく。主人公の真琴もやがてそれと同じ末路を辿ることになるのだが、彼には又別の物語が展開する。女装倒錯に浸る真琴と逢魔ヶ森で助けた乃里子がおりなすあやしい世界。小池真理子の得意な分野だ。
山に住む親子の狂気がありきたりなのが残念。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:09:41 (518 ヒット)

ルース・ベネディクト 著 ★★★★ 社会思想社

二十数年ぶりの読み返し。
日本社会の構造を文化人類学の面から分析している。この本を読んだ誰もが驚くのは、筆者が一度も来日していないのにこれだけ鋭く日本と日本人が分析されていることだ。少なくとも昭和三十年代生まれの私の日本感を見事に言い表している。作者が日本研究を米国から依頼されたのは昭和19年6月、米国が太平洋戦争において大攻勢をかけ始めてきた時期である。米国はありとあらゆる面において敵国日本を知る必要があり、その一環として筆者に日本研究が依属された。
この本の妙は、筆者の分析力の鋭さにあるが、それよりも私は英語で書かれた日本についての記述を邦訳で読み直すという点にあると思う。原書で読めば、もちろん理解できるはずもないが、ちんぷんかんぷんに違いない。この日本人から見て鋭いと指摘された分析は、どの程度米国人に理解されているのだろうか、それも気になる点である。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:49:30 (492 ヒット)

宮部みゆき 著 ★★ 出版芸術社

サイキックもの。
超能力者が自分の持つ力に悩み、一人は死んでいき、一人は実社会との共存に前向きに生きていく。
宮部みゆきの作品と言われれば、そうかな、と思わないでもないが、誰かのペンネームであっても疑問はもたない。
さらりと読めるが筆力は感じさせない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:49:00 (481 ヒット)

小池真理子 著 ★★★ 早川書房

1970年から1972年が舞台の恋物語。以前から読んでみたかったのだが、なかなか手に入らず、ようやく古書店で百円の良書を見つけた。
「恋」というには官能的でミステリアスな内容だ。せつない「恋」とはおよそ縁遠い。「秘密」と題してもよかったろうに、しかし、「恋」ではなくてはならなかった。
主人公が癌で亡くなる間際に、ルポライターに「これだけは秘密にしておいて」と語った、殺人という形で終わりに至ったすさまじい「恋」の話。
書評では連合赤軍の浅間山荘事件との関連性について触れられているものが多い。実際、物語りにもそれが伏線として描かれているし、主人公と学生運動との関わりも描かれている。
しかし、自分の中では「恋」のミステリアスな部分とは別のものという感がある。主題の「恋」とは別の話という感じが頭から離れない。また、それ自体でもりっぱな作品となり得る。
この本は二つの話を融合させた物語との印象が残る。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:48:12 (544 ヒット)

谷甲州 著 ★★ 早川書房

世界のあちこちで動物たちの異常行動が観測され始めた。宇宙船での事故をきっかけとして、流星パンドラの関与が浮上してくる。
それは地球外生命体の地球侵略の序章であったのだ。パンドラ探査隊が次々と地球を飛び立ち、パンドラ攻略が開始される。
出だしは、まあまあだった。しかし、動物たち(猿ら)が人間に攻撃をしかけてきたとう話が唐突という感じがした。それからは、
長い長い話が続く。宇宙船での活動など随所にキラリと光るものが散りばめてあるのだが、つなぎの質がよくなく冗長的な感が否めなくもない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:46:40 (557 ヒット)

藤原伊織 著 ★★ 講談社

ある日突然、配管工の主人公に蚊トンボが取り付いてしまい、彼は特殊な能力を持つようになる。そして、ヤクザがらみのトラブルに巻き込まれていく。『蚊トンボ』+『特殊能力』の設定がなくても十分面白い筋になったと思う。なぜ『蚊トンボ』でなければならなかったのか、疑問だ。
この本の書評には概して高く評価してないものが多いが、自分はそうでもないと思う。出だしこそ「これは?」と思ったのだが、すぐに引きずり込まれ、あとは一気読み(この意見も多い)。浅田次郎作品を思わせる個性の強い登場人物に笑ってしまった。ただ、浅田節になりきれなく、またサスペンスにしても中途半端という観がぬぐえなくもない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:45:56 (570 ヒット)

福井晴敏 著 ★★★ 講談社

サスペンス。江戸川乱歩賞をとる前の作品
「あなたの前に川が流れています。深さはどれくらいあるでしょう?1.足首まで、2.膝まで、3.腰まで、4、肩まで」と問われたとき、なんて答えるだろう。「腰まで」と答えた人は「何にでも精力的で一生懸命、バランスの取れてる人」。「肩まで」と答えた人は「情熱過多、暴走注意」。だそうだ。
元警察官のグータラ警備員の森山が、ヤクザのビル爆発事件に関係のあると思われる保をかくまうところから話は始まる。しかし、それは単なるヤクザの抗争劇だったのではなく、一年前に起きた宗教団体の地下鉄爆破テロとの関連性があった。森山は『赤坂』『市ヶ谷』『永田町』が絡みあった闇の計画に巻き込まれてしまう。キーワードは『アポクリファ』。
トム・クランシーを彷彿させる諜報戦と人間模様。怒涛の結末は一気読み。後に大賞を3つも受賞した『亡国のイージス』よりかはよくできていると思う。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:40:44 (522 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★★ 宮尾登美子全集 朝日新聞社 
第80回直木賞(昭和53年)

『一弦の琴』とは一台の琴の意味かと思っていたら、文字通り弦が一つしかない琴のことだった。だいたいそういう琴が存在していたことすら知らなかった。一弦なので華やかな音、演奏はできないだろうと想像するのだが、逆に、心にしみいる音色がかもし出されるのではないかと思う。
頃は幕末から明治、昭和四十年代まで、一弦琴に魅かれた二人の女性の物語。二人は一弦琴塾の塾長とその塾生の間柄なのだが、双方とも様々な出会いと運命を経てその道を極めていく。
ここでも宮尾節に聞き入ってしまう。他の作品同様、どの登場人物、どの場面にもすぐに入っていくことができる。和風の庭に面した縁側付の畳の間でピーンと張られた一弦琴を弾く主人公の姿を思い浮かべると、こちらも静謐な空気に包まれる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:39:34 (503 ヒット)

山を始めて最初に読んだのがこの本だった。以来、幾度か読んでいる。
誰もが通る山の本ではなかろうか。しばらくぶりで読んでみて思ったのは、『山以外の事も結構たくさん書かれてあったんだな』ということ。人間加藤文太郎もうまく描かれている。
単独行でありながら、人恋しいというのは、なんだかよく分かるような気がする。『・・・のだ』『・・・である』という文体が多く、耳にこびりつく。山でしょっぱい場面に出くわすと『俺はやるのだ』と一人悦に行っているときがある。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:38:24 (564 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★★ 宮尾登美子全集 朝日新聞社

宮尾登美子三部作の最後。
十八歳の綾子が乳飲み子を抱えて満州に渡り、すぐに終戦となって引き上げてくるまでの一年半が描かれている。
「ファンゴール」とは転地が逆さになるという意味の満州の言葉。終戦を境に満州にいた日本人の生活は一変してしまう。それまで虐げられてきた満州の人々が「ファンゴール」「ファンゴール」と叫んで日本人の居留地に押し寄せてくる。それこそ着る物一つだけとなった満州での悲惨な生活に追い討ちをかけてくる。そして、どん底の状況に置かれた主人公の葛藤。
「櫂」「春燈」そしてこの「朱夏」いずれも心地よい余韻が残る。何もかもあわただしい現在から、時間、空間、気持ちともトリップさせてくれる。
このあと物語は「仁淀川」に引き継がれているらしい。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:37:48 (439 ヒット)

宮尾登美子 著 ★★★ 宮尾登美子文学全集 朝日新聞社

「櫂」を読んだら次に読みたくなるのが、やはりこの「春燈」である。
「櫂」では主人公の母親の視点で描かれているが、「春燈」は主人公の目線で書かれている。宮尾登美子は出だしがうまい。さらりと、あれやこれや話題を拾っていきながら、いつの間にか主人公の世界に入っいる。
幼少の頃から、小学校の代用教員となり求婚されるまでが描かれている。ほのぼのとした純真な少女の成長記である。主人公の存在は一服の清涼剤のようなものであり、朝の連続ドラマを彷彿させる。求婚される場面ではなぜか目頭があつくなる。ふむふむと次のページをめくってみたら、そこで終わりだった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:17:50 (536 ヒット)

笠井潔 著 ★★★ 講談社

本格推理小説。
1月に出だしだけを読みかけて、ほうってあった。相変わらずこの人の本は理屈っぽい。読み直してみて、やっと入り込むことができた。
フランス革命中に起こった殺人事件をデュパンが解いていく。緻密に練り上げられた筋は飽きさせない。革命についての記述も、まるでそこに居るかのような臨場感を与えてくれる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:17:19 (575 ヒット)

江戸川乱歩賞作家短編集 ★★ 講談社

真保裕一の「黒部の羆」が載っていたので買った。まだ新しいので、さすがの古書店でも半額。
おのおの異なる形のミステリーが楽しめる。中にはハッピーエンドなのもあって、全体としては、中の中の上といったところか。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:15:29 (509 ヒット)

E.E.スミス 著 ★★★ 創元推理文庫

小学生の頃はいまどきの子供らと違って、本など読んだことはなかった。読んでいたのはもちろんマンガばかり。「少年」「少年画報」「ぼくら」などの全盛期だった。そこで覚えたロボット物、宇宙物は後々まで私の楽しみの一部となった。
中学に入って、休み時間になるとノートに宇宙船ばかり描いている奴がいて、そいつがが読んでいたのが「宇宙のスカイラーク」だった。なんだか面白そうなので僕も買っみた。およそ「本」というものを読んだのはこれが初めてだったと思う。中学生相手としてはSF度100%。当時としてはややわかりにくい用語もあったが、話の筋は単純で、マンガの延長線上にあった。
今読み返すと、当時のことが彷彿される。スカイラークが雲雀という意味なんてずいぶんあとから知った。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:14:45 (568 ヒット)

それまでのヴァンパイアのイメージをガラッと変えてくれた一冊。この本にそんな感想を持った人は多いと思う。主人公が現代の街にさっそうと登場。しぐさ、感情も今風に描かれており、読後感も申し分ない。
話は古くなるが、新婚旅行はネパールのアイランドピークを予定していた。カトマンズのエイジェントとの手紙のやり取りで、おおまかな日程を組んだ。しかし、いろいろあって6千メートル峰を登るためのトレーニングを積むことができず、直前になってアイランドピーク登頂を断念し、トレッキングに計画を変更した。
トレッキングを順調にこなして、アイランドピークのベースキャンプ地に入った。山小屋はエベレスト街道散策のトレッカーはもちろん、アイランドピーク目指してやってくる山家で人気のあるスポットだ。夕食を終え、寝床に就くまでのひと時、いつものようにお茶を飲んで時間を過ごした。我々の他には数人の欧米人が、薄暗い部屋の中にいた。その中の一人の女性が開いていたのが「夜明けのヴァンパイア」だった(もちろん原書)。
この地に集まってくる人々はトレッキングや登山という共通項を持っている。それ以外の共通項に偶然出会ったことに軽い興奮感を覚えた。日本にいてさえ、誰かがこの本を読んでいる姿にお目にかかれるとは想像しがたいのに、まさかこんなところで、それも原書に出会うとは。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:14:01 (522 ヒット)

瀬名秀明 著 ★★ 角川書店 上・下

量子力学は突き詰めていくと、精神世界、宗教の世界にまで踏み込むことになるという話を聞いたことがある。この本にはそんなニュアンスがある。脳を科学すると、それは心との問題に突き当たってくる。心は神の領域につながる。
これは物語なのか、脳科学の最先端解説書なのか、どこまでが本当で、どの変がフィクションなのか、あっちへ行ったりこっちに来たりと、そんな内容の本だ。UFOと臨死体験に接点があるとは思いもよらなかった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:13:16 (448 ヒット)

村上龍 著 ★★ 文芸春秋

村上龍で初めて読んだ本。
話はややイージーのような気もするが、軽いテンポの文体ですぐ読める。主人公のような中学生は今の時代実在してもおかしくない。今というのは2004年を含めて、そう遠くない将来である。ITそのもの、それに対する我々の状況、考えの変化はめまぐるしいものがある。半年、一年で地球を一周するくらいだ。この本が書かれた2000年と今とでは天と地との開きがある。その時に今の時代のありそうなことを描いていたのだ。


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